#22 ナイトコール、訪問者。
予期せぬ背後からのドアをノックする音、吸いかけていた息が思わず止まる。
(だ、誰ッ!?)
そうは思ったが恐怖のような感情のせいで僕は振り向く事が出来ず、視線だけを後ろに向けた。しかし、当然ながら真後ろを見る事は出来ない。右側方…、そのあたりを見るのがやっとだ。真新しい白い壁紙、それだけが視界に入る。
「…私です」
女性の声がした。その声には聞き覚えがある、普段聞いたら心が落ち着くような…そんな声。その声を前に聞いてから十分か十五分か…、そのぐらいしか経っていない。
「西野です」
声の主が自分の名を告げた、僕のクラスメイトだ。浮世離れした美しさ、そして先程の事がありありと思い浮かぶ。
銀色の髪、白い肌。
僕を背中から抱きしめた彼女の腕、間近で見たその白さと思わず触れた時の体温。思い出すと落ち着いていた鼓動がまた早くなるのを僕は感じていた。
(どうする?)
自問自答、どう対応しようかと考える。
「お声をかけようとしましたが何かお話のようだったので…。少しドアから離れていました」
真唯との通話が終わるまで待っていたって事か…。これでは居留守と言うか、『尋ねてくれた時にはもう寝てました』という言い訳も通用しない。
「お話が終わったようでしたのでドアをノックさせて頂きました」
彼女の口調はいつもと変わらない。もっともいつもと言い切れる程には付き合いは長くない、ここ数日だ。少なくとも声を聞く限りでは冷静なように感じる。
(食堂の…、
あの時の女子生徒達…、自らの意思とは関係無く動いていた時とは違うのではないか、少なくとも自分を律しているんじゃないか。僕を背中から抱きしめた彼女に少なくとも僕は恐怖感は感じなかった。戸惑いはしたけれど…。
深呼吸、わずかでも気分が落ち着かせよう…。僕は乾いていた唇を舌で湿らせ一呼吸、とりあえず僕はドアに向けて声をかけてみた。
「に、西野さん。どうしました?」
「その…、先程の事で…」
「あ…。それなら…」
気にしないで下さい、そう言おうとした。
「一言…、謝りたくて。日を改めてとも思いましたが…」
こういう事は反省したらすぐに顔を見てすべきだと彼女は言った。
僕は室内に
(追い返すのもなあ…)
そう思って僕はドアを開けた。
□
そこには西野さんがいた。
先程と違うのは上着を脱いでいる事か。そう言えば僕達は一日で互いの部屋を訪れた事になる、なんだか妙な感じ。
その西野さんがまっすぐにこちらを見て口を開いた。
「先程は気持ちが抑えられなくなり、佐久間さんの気持ちも考えず抱きついてしまい申し訳ありま…」
西野さんが 謝罪の言葉を述べていたところ、階段を降りる独特の足音が近づいて来たのが分かった。一つや二つではない、もっと沢山のものだ。それに気がつき、僕と西野さんは顔を見合わせた。西野さんの言葉がピタッと止まる。
「はい、早く戻って!ちょうど九時過ぎたところだから〜!!」
階上から寮母の田柴さんの声がする。九時を過ぎていたのか…、消灯時刻が過ぎたという事だ。
「間違っても佐久間君の部屋に行こうなんてしちゃ駄目だぞ。その場合、退寮も含めた厳しい処分が出る!」
寮長の
ガッ!!
反射的に僕は西野さんの手を取った。そのまま彼女の体を引き寄せる。ドアの内側に引き入れた。消灯時刻以降に僕の部屋を訪れるのは
「ドアが開いているな。プリティ、消灯時刻は過ぎているぞ?」
「どうした、何かあったか?」
どきぃんッ!!
(た、多賀山さんと大信田さんだっ!戻ってきたんだ。まずい、見られるたらッ)
ちらり、西野さんを見る。彼女は不安げな表情をしていた。
「よしっ!」
僕は小さく決意の声を発し、開いたままのドアから顔を出した。多賀山さんと大信田さん、その向こうには自室に戻る女子生徒達がいる。
「あっ、はい。なんだか階段を降りてくる人の気配がしたんで気になって…」
「そうか。まあ、あんな事があったんだ。気になるのも無理はないが…」
「ああ、カギ閉めて部屋にいれば安全だ。その部屋は
パニックルーム…。セーフティルームと言われる事もあるそれは自宅などの建物内に侵入者が現れた際に鍵を閉め立て篭もる事が出来る場所の事だ。十五年前にも聞いた事があったっけり欧米など先進国ではそういった場所を用意している家があるらしく、銃社会のアメリカなんか犯罪に銃が使われる事も珍しくはない為に割と需要があるらしい。それと同様の機能が…、いや居住性などを考えたらここははるかに上質だ。そんな施設に僕は寝泊りしている。
「わ、分かりましたっ!鍵をかけて大人しく寝る事にします」
「ああ、それが良い。私達はもうしばらくはここにいる。安心してくれ」
「まっ、アタシ達がいれば
二人に不信感を与える事は無かったようだ。僕はホッして寝る前の挨拶をしながら僕はドアを閉めようとした。
「は、はい。ありがとうございます。それじゃ…お二人ともおやすみなさい」
これで上手くやり過ごせたかな、そう思った。
「待て」
多賀山さんの静止する声が響いた。
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