#19 緊急生徒指導。


「今回の件は僕に何の被害も無かったですし…」


「「「「佐久間君…」」」」


 多賀山さんと大信田さんの登場により窮地を脱した僕だったが、女子生徒達の突発性結婚願望症候群サドンマリッジデザイアシンドロームの発症はまさに未知との遭遇だった。女子生徒達がゾンビ映画よろしく迫ってくる様は中々に恐怖ホラーだった。だけどそれだけ結婚に憧れているという事だけは分かる。単純に女子生徒達を責める気にはなれなかった。


 それにもう一つ。それは性的に襲われていたなら僕は被害者という事になる訳だけど、そうなったとしても『君は被害者か?』と問われたら『100パーセント、はいそうです』とは言えない自分もいる訳で…。


 男性なら分かると思うけど、もし迫ってきたのが好みの人だったりしたら『ウェルカムですよ』とまでは言わないが、『まあ、良いか』と考えてしまうよこしまな自分もいたりする。もっとも、いくら可愛いかったりしても寮にはまだ名前も知らない人もいる。そう考えるとあまりに節操が無い、そんな自分に少しばかり自己嫌悪する。


 ああ、僕はずっとモテない女性とは無縁の人生を送ってきたからねえ…ハッキリ言って女子とのキャッキャウフフな日常なんて夢のまた夢、手を伸ばしても届くはずもない高嶺たかねの花。女子との親密な時間なんて考えもしなかった。女子との接点に嬉しい事はあっても嫌な事はない。そんな心境もあり今回の件を『自分は被害者です』だなんてとても声を大にして言えない僕は『格別の御配慮を…』と申し出た次第である。


「プリティがそう言うなら良いが…」


 多賀山さんが相変わらず渋い声で言った。


 今回起こった騒動について女子生徒達にどう対処するかという事になり、僕は穏便にお願い出来ればと申し出た事で寮生の皆さんには警察側の処分としてはきつく叱りおくにとどまった。


 皆さんも僕と同じ寮生な訳だし、聞けば再発はもう無いらしい。それなら殊更ことさらに大騒ぎしなくても…、そんな風に思ったのがその理由。


「まあ、それでも指導おせっきょうはしないといけないな」


 大信田さんが軽く応じるが、それでもどこかにシメる所はシメるという雰囲気がある。


「そんな訳だプリティ、先に部屋に戻ってるんだぜ。この食堂はこれから立ち入り禁止だ」


「現役刑事による緊急生徒指導…ってね」


 そんな訳で僕は夕食を食べ終えると早々に食堂を追い出された。そんな訳で今は自分の部屋に向かっている。寮の入り口から少し入った所で見知った一人の女子生徒を見かけた。そこには…


「西野…さん」


 僕と一日違いの転入生、同じクラスで席は隣の西野雫にしのしずくさんがいた。


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