#18 救いの空砲。
一斉に女子生徒達が僕に向けて手を伸ばしてきた。動きの速度自体は
「い、いやッ!あるぞ、逃げ道ッ!」
食堂のテーブルッ!!
この上に飛び乗って走るか?それともテーブルの下に潜りその下を抜けていくか?
「上か?下か?」
僕は座っている椅子から腰をわずかに浮かせ、空いている手で今まで座っていた椅子を後にむけて
そう、椅子の下を抜けこの場を離れるッ!
それが僕の選択。だが、その
「ッ!?」
後ろにむけて叩いた椅子がわずか数センチしか動かずすぐに止まった。身を沈めるが、それは再び同じ椅子に座るだけ。前傾になった僕がチラリと後ろに目を走らせると、そこにも女子、女子、女子!そうだ、すっかり囲まれていたんだった!!
女子生徒達の手が伸びてくる。
「さぁくぅまぁくぅ〜ん!」
「つかまえたぁ〜」
捕まった、そう思った。
ぱ、ぱぁあああんッ!!!
弾けるような音、二連発。聞き覚えがある、あれは医療センターで…。これは、銃声!?
僕も、そして女子生徒達も音のした方を向いた。人混みに一筋、裂け目が出来た。モーゼが海を割ったように。そしてそこには…。
「
揃って拳銃を発砲した姿勢で立っている女性刑事二人。ちなみにもの凄くそのポーズは決まっていた。
□
「あ、あれ…、わたし…?」
僕に群がるように手を伸ばしていた女子生徒達が口々に呟いている。れ、冷静になったのだろうか?
その様子を見て多賀山さんがニヤリとばかりに口元を釣り上げた。目が笑っているかは…サングラスをらしているから良くは分からない。ちなみにそれは大信田さんも同様、そんな彼女が口を開いた。
「悪いな、アタシらこのぐらいしか知らないんだ」
続いて多賀山さんも口を開く。
「急性の
やだ、二人ともカッコ良い…。男女逆だったら一瞬で恋に落ちてるかも…。あれっ?でも…。
「も、もしかしてゴム
僕は医療センターでスタッフの人達が押し寄せた時の事を思い出した。あの時は射撃が得意な多賀山さんが押し寄せる人の額にゴム弾を
「今回は当てでないぜ。なあ?」
「ああ、空砲だからな」
空砲って弾は飛ばない、火薬による発射音だけさせるものだよね。
「それなら誰も…」
「安心しろプリティ。今回は気絶させるものじゃない」
「目を覚まさせてやったのさ」
「目を…?」
「
「現代の
研修でも習ったっけ…。突発性結婚願望症候群…、別名『女子の厨二病』とか『
三万人に一人の割合しか生まれない男性との結婚、とりわけ人工授精をしていない男性との結婚を切望しすぎるあまり暴走し欲望のままに行動してしまうものらしい。そんなバカな…、僕もそう考えていたが今回の件で本当の事だと痛感した。
この突発性結婚願望症候群こと厨二麻疹、その名の通り中学二年生前後位から発症する事が増えていく。なんでも僕のような自然出産された男性は、人工授精による出産された男性に比べはるかに異性を引きつけるフェロモンというやつがとんでもなく多いらしい。
実は十五年前の男性消失現象が起こる前からも当然男性からフェロモンは放出されていた。そうなると十五年前までの女性は常にフェロモンに触れていた事になる。しかし、男性が消失した事でそれがほぼ皆無となったのである。そのせいで若年層ほど今まで触れた事の無い男性フェロモンに触れ、そういった女性は無自覚的に興奮状態にあるらしい。そこにほとんど不可能な男性との結婚を意識するような事が起こり、しかもその目の前に天然の男性がいたら…。
後は推して知るべし、近付きたくて詰め寄り、さらに男性を感じたくなり手を伸ばし、その後は本能の赴くままに。先日、中学校でら起こったという五十代の男性用務員さんが女子生徒の集団に性的暴行を受けた事件はこの突発性結婚願望症候群が引き金になり、事件にまで発展したのだという。
恐ろしい事態につながるおそれのあるこの症状だが治すのは簡単らしい。その症状になったら冷静にさせれば良いらしい。すると先程の女子生徒達のようにあっさりと我にかえる。そしてもう一つ特筆すべき事は一度この症状になり冷静になった人は再びこの症状になる事はないらしい。一度かかったら免疫が出来てその後はもうかからない
「これが…突発性結婚願望症候群…」
初めて触れた性犯罪の被害者になるかも知れないという事を痛感した日、だけどそんな風になるのも無理からぬ事なのかなと思った夕食の時間だった。
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