#15 ツバサ得る者。


 無事に自動二輪免許を取得し、大信田おおしださんが運転する車で帰途につく。多賀山たがやまさんは今日はバイクを使わず車に同乗していた。


「試験前の大事な体だからな…」


 多賀山さんはそう言っていつものバイク二人乗りではなく、車での移動にしようと提案してきた。それで現在三人で車に乗り西へ、河越へと向かう途上である。


「おっ!見ろよ、見ろよ!飛行機が飛び立っていくぜ」


 大信田さんが前方を指差す。


「荒川近くのこの辺は民間飛行場があるからなあ」


「へえ、飛行場ですか!?」


 僕だって男だ、バイクや車だけでなく飛行機にも興味はある。フロントガラスの向こう側、夕焼け色に染まった銀翼ぎんよくがその姿を小さくしていく。


「ああ、もっとも航空会社が飛ばすようなでけえモンじゃなくて、小さいやつだ」


「良いよなあ、あれが有ったら『ちょっと名古屋までとか思ったらすぐだぜ、すぐ飛んで行けるんだよなあ」


「ああ。だがバイクもな飛行機と一緒だ。けどな飛行場に降りなきゃならないのと違って自分の好きなトコに直接行けるだけ小回りくけどな」


 多賀山さんがバイクの良さを語る。


 そういえば、どこかの教習所の生徒募集の看板にハンドルは自由への翼って書いてあったっけ。道行くところ、どこまでも行ける。


 僕が中学生の頃にキャンプを題材にした漫画がヒットして、それから車中泊とかもクローズアップされた。そんな時にバイクで日本を回ったりできたらなあとか思ったっけ…。


「今ンとこ多賀山タガだけど二年後はアタシだ、そん時にゃあみっちり仕込んじゃうぜ?プリティ」


「えっ!?に、二年後?」


 不意に大信田さんに名を呼ばれた、反応がしどろもどろになる。


四輪クルマだよ、ク〜ル〜マ。十八歳じゅーはちで受験資格ゲットだろ」


「あ、はい。そうですね」


「だ〜か〜ら、その時にはアタシがしこんでやる。セクシードライビングってやつをな!」


「是非、よろしくお願いします」


 セクシードライビングというが気にはなったがここはスルー、世の中触れない方が良い事もある。そう思うと僕はなんだか一つ大人になった気がした。


 それと同時にありがたさも感じていた。それはどうやら多賀山さんも大信田さんもあと二年間、僕とつるんでくれるらしいという事だ。僕は感謝しつつ車内での他愛のない話に興じた。


「そーいや、免許取れたんだからバイクも欲しいトコだよな」


「来週…は、文化祭だっけか?じゃあその次の週にでも見に行くか」


「あ、いや。実はもう欲しいバイクはもう決まっていて…」


「へえ…、どんなのだ?」


「あ〜、待て待て!アタシが当てる!」


 大信田さんがバイクの車両名を挙げ始めるが残念ながら不正解だった。なんだかんだで会話が途切れない車内。免許センターから河越まで、決して近くはない距離だったが、見慣れた街並みが見えてくるまでそう時間はかからなかった。


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