#14 多賀山刑事の弟子。


「78番…。当然だな」


「とかなんとか言っちゃってさ。多賀山タガ、嬉しいんだろ?」


 学科試験合格者を表示する電光掲示板、それを見ながら多賀山タガと呼ばれた女性がフッと鼻で笑う。


「まあ…、そうとも言う」


「素直じゃねーなー」


 そんなやりとりをしている二人だが、共にその表情はどこか嬉しそうだった。そこに一人の少年が駆け寄ってくる。


多賀山ダンディさん!大信田セクシーさん!学科、合格かりました!今から実技試験場に行ってきます!」


「「おう」」


 二人の刑事は短く応じ、早く実技試験場に行ってこいとばかりに手で促した。それを見て少年もまた嬉しそうに『はい』と一声残して今度は違う方向に駆けていった。


「なあ…。コーヒーか?」


「お前もだろ」


「二時間くらい待つからなァ…。まあ、のんびりしよーぜ。まあ今回は多賀山タガに花を持たせるわ」


「二年後は自分だ…ってか?」


「ああ、四輪クルマはアタシが仕込む」


「長い付き合いになりそーだな」


 そう言って二人は歩き出した。人気ひとけのなくなったがらんとしたロビーに向かって。



「プリティ、明日行くぞ」

「安心しろ、送ってやる」


 金曜の夕方、そんな多賀山さんと大信田さんの一言がきっかけとなり始まった学校が休みになる翌日土曜日の出来事。河越八幡警察署の刑事である二人と共に朝早く寮を出発した。自動二輪バイクの免許を取りに行く為である。


 埼玉県の北部に位置する都市に県の免許センターはあった。電車で行くとなると乗り継ぎの必要があり、かつ最寄駅で下車した後それなりに長い距離を歩く事になる。バスの路線も有るには有るが満員である事がほとんど、女性ひしめく車両に男性が一人乗るのは望ましい事ではないらしい。それゆえに送ってくれるのだと言う。


「78番、試験を開始する。走行開始から前方赤色のポールを通過するまでは試走区間とする。それ以外は全て採点対象となるので注意するように」


「はい!よろしくお願いします」


「では、始め!!」


 僕の実技試験が始まった。


……………。


………。


…。


 少年が実技試験に向かって一時間半が過ぎた。


「戻ってこねーなー」


「ああ、それで良い」


「どうやら合格か、お弟子さんは?」


「そうだな、落ちてたらもう戻って来てるだろうからな」


「じゃあ今頃プリティは手続き中、センター内では免許証を絶賛制作中か」


「もう一本飲むか?」


「ああ、ブラックだな」


「胃を悪くするぞ?」


「大丈夫だろ。どこのメーカーもコストカットで豆ケチるから。どうせ薄いのしか作らねー」


 そう言いながら大信田おおしだ裕子はくっくっくと笑った。


「楽しいよなァ…」


「ああ、悪く…ないよなあ」


「「アイツ待ってるっていうのも」」



 出来立てホヤホヤの免許証を持って僕は免許センターの廊下を駆けた。廊下は走らない、小学生の頃に習ったが今はどうでも良いやとさえ思った。一気に階段を駆け込下る。


 一階のロビーで二人の姿を見つけ大きな声を出した。僕を待っていてくれた二人を呼ぶ為に。


多賀山ダンディさん!大信田セクシーさん!」


 ロビーには二人の他には誰もおらず、走る僕の足音だけが響いた。


「おかげさまで無事にバイクの免許が取れました!」


 僕はそう言って出来たばかりの免許証を二人に見せるのだった。

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