#13 ナニが起きた?(その3)
「変わってない…なぁ…」
ここから南へ1キロか、いや…2キロまではいかないくらいか、そこまで行くと関東平野を環状に走る二ケタの国道がある。しかしそこは日中は大変混雑する為に今僕達がいる県道はその抜け道となっている。国道と並行するように東西に延びるこの道は北は住宅地、南は田園とそれぞれを分ける境界線にもなっており時折地響きを立てて走るような大型車が通り過ぎていく。
視界を妨げない平坦な風景を見回せば色々な事を思い出す。こっちの方向には大きな沼があったっけ…。小学校の時に口下手な父と釣りをした、桜舞う春にハンバーグをご飯の上に乗せただけのお弁当を
□
「全員揃ったよ〜」
880人ほどの女子生徒と一緒に移動している為、先頭集団にいる僕と最後尾にいる生徒では到着時間に差が生まれる。
夕食には早い時間の為、広々とした駐車場には900人に近い生徒達が集結していた。トラックの中でも最大級のものが停まる事も多い為、広い駐車場を備えるこの場所は僕達が入場してもまだスペースがあった。夕食を食べるにはまだ早い時間というのも幸いしたのだろう、停まっている車も無かった。
「ここで佐久間君が…」
女子生徒の皆が何やら思いを馳せている。なんでも男性の手料理…、いやたとえ作っていなくても配膳された物を口に出来るだけでその女性はもの凄くラッキーなんだそうだ。
「世の中には男の人の手料理…。いや、会う事も出来ない人もいるんだからねっ!!」
なぜかツンデレ風に語る人もいるくらいだ。僕という存在はなかなかに希少価値があるらしい。
「…そんな訳で、行方不明になるまでのほんの一週間程ですけどここでアルバイトをしてました」
なるべく手短に当時の状況を話した。一応、全校生徒が入り切る前にお店の方には挨拶をして駐車場に入る許可だけは得ていたのだがいつまでもいるものではない。
「さ、さあ!次に行きましょう。案内をよろしくお願いします」
そう言って僕達は牛丼屋さんを後にした。
「よーし、ここから佐久間君の周りを固めるのはウチらバスケ部に交代だあ!!」
「ディーフェンス!ディーフェンス!みたいな?」
「そんな感じぃ〜!」
どうやらマスコミの撮影から僕を守る役割をバトンタッチするらしい。学校へ戻る帰り道、どこに案内してくれるんだろうかと考えながら僕は再び歩き出した。ちなみにこの牛丼屋さんへの訪問には後日談がある。
しばらくして、学校に牛丼屋さんからお礼の電話が来たらしい。なんでも今回の牛丼屋さん訪問で『あの佐久間君がバイトしていた牛丼屋さん』と銘打って一部の人々から聖地認定されたらしい。
いわゆる人生で一回は行きたい牛丼屋さん、そんな感じになったらしい。やがてそれは『ねえ、あの牛丼屋さん行った?』というブームから、『ねえ、あの牛丼屋さん何回行った?』という風潮になり
「無料券がいっぱい来たそうだぞ」
お礼の品として牛丼無料券が千枚届けられた事を梁緒先輩が教えてくれたけど、僕が行くとなにかと面倒をおかけする事になるので無料券は先生や生徒の皆さんに分配した。爆発的ブームが過ぎた後も『佐久間修ゆかりの店』として
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