#11 ナニが起きた?(その1)


 道端に一人の長身の女子生徒が倒れていた。周囲に友人とおぼしき女子達が集まり必死の呼びかけを行っている。


「お、おい!粟原あわはらッ、しっかりしろ!」


「そーだよ!メグちゃん、目を開けて!」


「わ、わ…たし…」


「どうした!寮に帰ったら今日の事、日記に書くって言ってたじゃないかっ!!」


「に…、日記…」


「そ、そうですよ!粟原さん、言ってたじゃないですか!」


 一人の男子生徒も追随ついずいするように呼びかけると倒れていた女子生徒は苦しげにうめいた。


「う…。さ、さ…くま…くん…。うう…」


「粟原さんっ!」


「う…、うま…」


「うま?」


「生まれるぅ〜!!」


 そう叫ぶと女子生徒は力付き、『ぱた…』とばかりに手を地につき、その瞳を閉じた。


「「「メグぅ〜っ!!」」」


 周囲な女子生徒達から一斉に声が上がった。一方で力尽きた女子生徒の表情は穏やかで、笑みさえ浮かべているようだった。


 しかし、そんな中で戸惑いを隠せない者が一人…。倒れた女子生徒を支えていた男子生徒であった。意味が分からないとばかりに何事か呟いている。


「え…?何…?その…『生まれる』って…」



「佐久間君がバイトしてたっていう牛丼屋さん、同じ場所にあるよ」


 とある女子生徒が昨夜の歓迎会の時に教えてくれた情報に対し、僕が何の気なしに行ってみたいと応じたところ『今行こう、すぐ行こう』とばかりに寮生の皆が食いついた。


 そこで日を改めてという事になったのだが、善は急げとばかりに翌日放課後に行こうという事になった。


「ついでに学校周辺も案内してあげるよ〜」


 女子生徒の皆さんが熱心に勧めてくる。実家から歩いて五分少々、この町で育った僕からすれば土地勘はあるので迷子になる事はない。しかし、実家が近くにあるというのは口にしない。


「押しかけられたりしないように」


警察署で男性の為の様々な研修を受け、うかつに自宅の場所なども明かさない方が良いと教えられたからだ。


 かくして学校から歩いて数分、十五年前に僕がバイトしていた牛丼屋さんに向かったんだけど…。


……………。


………。


…。


 河越八幡女子高校の正門を出てからおよそ100メートル、それはいきなり起こった。僕の右横を歩いていたバレーボール部の粟原恵さんが倒れたのだ。


 ただ粟原さんが地面に身体を打ちつける事だけは避ける事が出来た。スローモーションのようにバランスを崩して倒れていく様子にいち早く気付いた僕が受け止める事が出来た。もっともお姫様抱っこのようなカッコ良いものではなく、背中を支えようとようとして手を伸ばしたものの勢いと僕より大きい体格を支えられず僕まで巻き込まれるような形になったのだが…。


 どさっ!!


 倒れかかった粟原さんを地面に打ちつけちゃいけないと必死になったけど、僕には体格に勝る粟原さんを支える事なんかとても出来ず立った姿勢から直接正座に移行するような形で仰向けに倒れゆく彼女をどうにか受け止めた。


 着地する際に二人分の体重がかかった僕の膝を粗めに舗装された歩道のアスファルトが受け止める。ああ、コレ絶対に膝を擦りむいているな…、小学校低学年以来か…ふとそんな事が頭をぎる。


「お、おい。なんだよ…。生まれるって…。まさかメグの奴…、デキてたのか?」


「「「「ええっ!!?」」」」


 周囲の生徒達から驚きの叫びが上がる。


「い、いや、それはないよ!メグは今まで男の人に会った事ないって言ってたし…」


「人工受精もまだだよな?」


「うん。ウチの高校ガッコ、新生児保育施設無いし未対応っしょ!」


「…と、すると?」


「メグ…、もしかして昨日の夜、佐久間君と…」


「んんっ!?」


 えっ?なんでいきなり僕の名前が出てくる?しかし、戸惑う僕を他所に一人の女子生徒が呟いた。


「メグ…、階段登ってたんだ…。大人の…」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る