#9 フレンドリー・アウェイ


 寮の食堂には生徒も寮母でもある田柴先生も含めて寮で生活している全員が集まっていた。私服な人もいるし部活を終えて急いで駆けつけてくれたのだろう、ジャージや練習着のままの人もいる。


「改めてようこそ!!佐久間修君!我々全員、八幡寮を挙げて君の入寮を歓迎するッ!」


 僕を連れて食堂に入った梁緒先輩が高らかに宣言するとそこにいる皆が沸きかえった。


 わあああああぁっ!!

 パチパチパチパチ!!


 食堂に歓声と拍手、そしてたくさんの笑顔が満ちていく。その中心に梁緒先輩に背中を押されるようにして促された僕が向かう。


「いらっしゃーい!!」

「ね、ね?佐久間君、ここ座って!」

「写真撮ろ!!写真撮ろ!!」


 大盛り上がりの中、いわゆるお誕生日席に案内される。しかし、百人近くいるという寮生に囲まれ僕は借りてきた猫状態だ。サッカーで例えればこれが敵地アウェイの洗礼か。これじゃあ雰囲気に飲まれて満足に調子が出せない、何事にもメンタルは重要だということを実感する。もの凄く友好的フレンドリーではあるけど…。


「あれぇ、緊張してるの?リラックス、リラックスぅ!!」

「あはは、じゃあお姉さんの膝の上に座るぅ?」

「あっ!ズルい!ズルい!」

「それならアタシは佐久間君のピザの上にぃ〜!」


 上級生の先輩かな、なんだかグイグイ来る。裾の短い服を着て自信があるのか妙に太ももをアピール、手でポンポン叩いて座って座ってと誘ってくる。


「い、いや…。僕は…」


 僕は一歩後ずさる。

 

「あっ、照れてる。照れてるぅ〜」

「うふふふっ、カワイ〜」


 つんつん、僕の頬を軽く突っつく人もいる。僕がアワアワしていると梁緒先輩のカミナリが落ちる。


「その辺でいい加減にしないか!お触り会じゃないんだぞっ、歓迎会だっ!!」



 歓迎会は寮生が全員集まっての夕食会のような感じだった。普段は各自がトレーにご飯やおかずをとって食べるのだが、今日はバイキングのような感じになっている。


「佐久間君、唐揚げ好きなの〜?」


「あ、はい。好きですね」


 そう言えば今日のお昼も唐揚げを食べたっけ…、真唯が作ってくれて…。そう考えるとなんだか今日は唐揚げに縁がある一日だ。


「ねえ、佐久間君。部活には入るの?」


 スパッツをはいた女の子が声をかけてくる。


「あ、いえ。今のところその予定は無いですけど…」


「な、ならさぁ…、バレー部に…」

「あー、待って!陸上どう?」

「水泳部にしなよー。佐久間君がいるなら真冬でも外で水着着るよ!」


 今度は部活の勧誘合戦が始まった。しかし、もしこれで僕がどこかの部に入ったらそれはそれで何かあるだろうし…。何かやりたい事がある訳でもなし…。


「佐久間君は川越八幡高校に在籍していたんだろう?その時、部活はどうしていたんだい?」


 追加の料理をテーブルに運んできた寮母の田柴先生がそんな質問をしてくる。


「その時は部活には入らずバイトをしてました」


「えっ?バイト?」

「どこで?どこで?やっぱりコンビニ?」


「いえ、牛丼屋で働いてました。北新谷きたしんや駅に向かう県道沿いにあった野吉屋のきちやで…」


「マジ!?今も野吉屋あるよ!」


「えっ、そうなんですか?ちょっと見てみたいかも…」


 何気なく言ってしまったその一言、それが翌日ちょっとした騒動を起こす事をこの時の僕は考えもしていなかった…。



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