#5 やっぱり家族で暮らしたい。

 男性消失現象が起きてから十五年、日本では結婚可能年齢が男女共に十六歳となっていた。


 以前の日本国憲法では男性十八歳、女性十六歳であったが法改正により男女共に十八歳となった。成人年齢が二十歳から十八歳に引き下げられた事と男女平等の観点から変更された訳であるが、出産可能年齢を少しでも長くする為に日本政府はさらなる法改正を行い男女共に結婚可能年齢を十六歳とした。


 …そして今に至る。



 十六歳で結婚可能、という事は高校生や専門学校生同士の結婚も可能という事である。当然、そこには妊娠や出産の可能性もはらんでくる。


 高校生活を結婚、妊娠出産を伴い送る可能性も当然ながら想定されていた。


 それゆえに公立高校であるここ河越八幡高校でも男女間の同意と許可さえ得れば男子生徒の部屋で女性との同居も可能となるのである。


 男女間の同意、これは基本的に婚姻関係を前提としたものではある。しかしながら、一つ抜け穴があったのである。


「妹…さんなのかい?」


「はい、実僕と真唯は兄妹きょうだいなんです」


「田柴先生、私も今日の午後そんな噂を聞きました」


 えっ!?三年生のクラスにまでらそんな噂が広まってるの?人の口には戸は立てられないと言うけどどうやらそれは本当のようだ。と言うより女子生徒の情報網、おそるべしだ…。



 校則…というか、公立高校において寮の規則として『男子生徒の家族の同居、または宿泊を認める』とある。配偶者、ではなく家族としているのにポイントがある。おそらくは子供が生まれた場合を想定しているのだろう、両親とその子を人道的見地からも同居させようというのだろう。


 その文言からすれば家族である真唯と同じ部屋にいる事が可能になる。私立の学校では家族の分まで住居スペースを用意する場合もあるという。男子生徒に対して厚い待遇をして入学してもらう、すると女子生徒が日本全国から殺到するらしい。それどころか極端な場合、海外からも入学希望の問い合わせがあるんだとか…。ハッキリ言ってそれだけで投資したお金は十分に回収できるんだそうだ。


 特に僕のような自然妊娠の男子の場合はその傾向が極端で少子化どころの問題ではないそうだ。特にここ数年は自然妊娠による男性出生数の減少の一途で、一年に日本全国でも数人しか生まれない。人工受精などを駆使してなんとか男性が生まれる数を増やしているそうだが事態は好転していない。親となる男性の絶対数が少ないのがその原因、またそれにも問題はあるらしいが…。


 それゆえに男子生徒の募集は激しい争奪戦が必至だ。プロ野球で例えれば、人気・実力を兼ね備えた球界を代表するような超スター選手がFA宣言するようなものだろうか。年俸の高騰だけでなく、住居や専属のコンディショニングスタッフを用意するなど『これだけするから、是非ウチに来てくれ』という感じだろうか。


 もちろんその男子高生と女子生徒が恋愛関係になる事は学校側としても大歓迎らしい。そして万が一にも男子が生まれればその話題性は想像にかたくない。


「実は僕と真唯は家族ですが、血はつながっていません。でも、真唯は僕にとって大切な存在です。毎日とまでは言わないので、部屋に宿泊しても良いように許可をいただけるようにお願いします」


 そう言って僕は頭を下げた。別に毎日一緒じゃなくても良いんだ。真希子さんが宿直勤務の日に真唯がそれを望めば僕の部屋に寝泊り出来たら良い。そうすれば、夜に一人寂しく家で過ごさなくてもいいんだ。


 逆にいつか外泊許可をもらって僕が家に戻るのもアリだろうか。そうすれば家族三人、また一緒に暮らせる。もしこの申し出が許可されたら…、もう真唯に寂しい思いをさせなくて良いんだ…。


 そんな希望を胸に僕は話を続けた。机の下ではいつの間にか真唯が僕の手を握っていた。

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