#3 早くシャワー、浴びて来いよ?


 もぞもぞ…。


 抱きしめていた真唯が何やら体を動かし始めた。なんだろう、割と必死な感じだ。


「あ、あれ?真唯、嫌だった?」


 僕は慌てて抱きしめていた手をほどいた。


「う、ううん。ち、違うよ!嫌じゃない…」


「え、それじゃどうして?」


「だ、だって…」


 真唯は恥ずかしそうにしている。


「きょ、今日は体育でマラソンしたし…。汗臭かったりしたら…」


「そ、そんな事ないよ」


「ううん!制汗スプレーとかはしたけど…。汗かいたのは間違いないから…」


 女の子って急に変な事というか、現実的な事を考えるんだなあ…。いや、もしかして…。


「もしかして、僕から汗のイヤな匂いが…」


「ち、違うよ。そんな事ない…!むしろ…」


「えっ…」


「な、なんでもない…」


 そう言ったきり真唯は下を向いてしまった。


「あっ、そうだ!寮母さんや寮長さんとの打ち合わせが三十分後ろ倒しになったんだって。もしよかったら真唯、待ってる間にシャワーでもしてく?まだ時間あるし」


「え、良いの?」


「もちろん」


「でも、私けっこう長風呂だから迷惑かけちゃうかも…」


「えっ?そうなの?」


「どうしてか分からないけど、小学校に入る前くらいかな…その時のアダ名がしずかちゃんだったの」


 なんと!?


「もしかして、夕方より早く…例えば午後三時とか四時頃にはお風呂入ってた?」


「う、うん。お兄ちゃん、なんで分かるの?」


「あ、いや…なんとなく」


 あらら…。これじゃあお爺ちゃんの名にかけて誓うより先に言わざるを得なくなるじゃないか。


「謎は…、全て…、解けた」


「???」


 僕のそんな言葉に真唯はポカンとしている。ああ、いけない、いけない。なんか色々な所からツッコミが入りそうだからこのぐらいにしとこう。


「じゃ、じゃあさ、湯船バスタブに浸かるんじゃなくて軽く汗を流すくらいにしておいたら?シャワー程度にさ」


「あ、うん」


 それじゃあ決まり、後はこういう時に言うべきセリフを言うだけだ。僕は真唯を優しく見つめて声をかける。出来るだけ良声イケボになるように意識しながら…。


「真唯。早くシャワー、浴びて来いよ」


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