一つ屋根の下、寮に男子がやってきた。

#1 大名行列?一緒にイこうよ、佐久間君!


 食堂で文化祭の模擬店で出すものを決めた僕達、気がつけば時計の針は夕方五時を迎えようとしていた。


「あっ。皆さん、僕はそろそろ…」


 そう言って僕は席を立とうとする。


「えっ!?佐久間君、まだ良いじゃん!」

「そーだよ!もう少しウチらとお話しよーよ!」


 一緒にいたクラスメイト達から引き止めの声がかかる。ついでに言えば集まってきた他のクラスの子もいるし、護衛をしてくれている浦安さんと崎田さんのベテラン刑事コンビが近過ぎず遠過ぎず絶妙な距離で待機してくれている。緊急時は動くけど、平時は僕の生活には関与しないという事らしい。


 校則では学校内の施設には午後七時まではいても良い事になっている。しかし、残念ながら僕には外せない用事があったのだ。


「ごめんね、実はこれから今日が入寮日で寮母さんや寮長さんと話をする予定になってて…」


「「「「ええ〜っ!!?」」」


「じゃあ、お友達を…。…んなコタないか」


 かつてお昼の長寿番組に出演していた某有名司会者の口癖を真似してみた。


「どうしたの?佐久間君?」


「い、いえ。何も…」


 平成生まれなら分かる文化カルチャーが周りの人には分からない。ど、同級生なのに…、これがジェネレーションギャップというものなのか…。


 なんだか寂しい気持ちになりながら僕は席を立ったのだった。



 ぞろぞろ…。


 僕の歩く周囲から後ろへと続く五十人近くの女子生徒達…、現代の大名行列かと言わんばかりの様相を呈している。


「佐久間君、寮なら一緒だねー。アタシ105!」


「うう…。こんな事になるなら遠いのに無理して電車通学しないで寮に入れば良かった…」


「同じ寮ならイベントが期待出来るのに…。間違えてお風呂で鉢合わせとか…」


「ちょっとぉ!夜中に間違えて『他人の部屋に入ってくる』ってのも忘れないでよね!」


「「「それだっ!!」」」


 ちょっと、女子の皆さん聞こえてますよ。『それだっ!!!』じゃないっスよ。口には出さないけど…、是非ともつつしみと言うものをですね…。僕はそんな事を思いながら学校敷地内を寮へと向かう。


「私、寮暮らしだし!!佐久間君一緒にイこうよ!!」


 なんだか妙に力のこもった提案が一人の女子生徒こら上がると、他の子達も私も私もと後に続いた。


「ア、アタシ、寮じゃないけど送ってくよ!」

「うんうんっ!見送りだけでもさせてっ!」

 

 そう言われると強いて断れるだけの理由も胆力たんりょくもない僕は多数の女子生徒を引き連れての大名行列、平成の時代で言うところの人気絶頂の男性アイドルとその追っかけのような構図となった訳である。


「えっ!?あれ何っ?」

「あっ、佐久間君じゃん!」


 不意にかかった声の主をチラッと見たらセーラー服のリボンが赤色の女子生徒だった。二年生の先輩だ、この学校では学年ごとに学年カラーというものが設定されていて、今年の一年生は青で三年生は緑。セーラー服のリボンだけでなく体操着やジャージ、上履きや体育館履きのカラーにも反映される。


 学年カラーは入学年で固定されていて、来年無事に二年生に進級出来きたなら僕は今年と同じ青色の学年カラーになる。今年の二年生は三年生に進級すればそのまま赤色のまま、来年の一年生は今年の三年生が使っていた緑が学年カラーになる。


 ちなみに先程の二年生の先輩達もまた行列の後ろにくっついたようである。その後もまた複数の女子生徒が加わったようで制服姿の生徒だけでなく、ジャージやユニフォーム姿の部活真っ最中の生徒もいた。…練習とか良いのかな?


 そんな訳で明日からこっそり、かつ迅速に教室を出ようと思った帰り道だった。


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