#9 八木対決!その4。一年一組の男子


 文化祭の出し物、一年一組は模擬店に決まった。しかし何を作って売るか…、それがまだ決まっていなかった。


 そこで放課後すぐにクラス全員で食堂へ向かい、自動販売機でジュースを買って相談しているんだけど…。


「あー!!お米以外に具を使えないってマジ無理ゲーじゃん!」


 一人の女子生徒が立ち上がって叫んだ。


「調味料で味変あじへんするぐらいしかないよね」


 そう言ってまず名前が上がったのはいわゆる『さしすせそ』、調味料の砂糖・塩・酢・醤油・味噌の五つ、。そして胡椒こしょう唐辛子とうがらしなどの香辛料だ。


「それだけだと味気無い食べ物に調味料を持って来ようとするあたり異世界ラノベあるあるだよね」


 誰かがそう呟くのが聞こえた。へえ…、十五年経った今の時代でも異世界モノのラノベがあるんだ…。


「後は油ぁ?炒めるならバターとかあり?」


「んー、バターライス?醤油風味の?」


「あー。じゃあマヨは?」


「ギリセーフ?」


「卵入ってね?」


「じゃあ、ダメかぁ。マヨ使えねーじゃん」


「うわ、マジでぇ?」


 マヨネーズが使えない可能性に落ち込んでる人が数人いる。きっとマヨラーなんだろうな。


「そう言えば佐久間君、お昼にお米食べてたんでしょ?どんな料理だったの?」


「あ、ええと…おにぎりを」


「そっかあ…、それを…あの子と?ええと…」


真唯まいだね」


「あ、そうそう!す、凄く親しいよね、名前で呼んでるし…」


「ああ、妹だからね」


「「「「いもうとぉっ!!?」」」」


 僕以外のみんなのハモりが凄い。


「う、うん」


「そ、そっかあ…。い、妹なんだ」

「だ、だったら大丈夫かな」

「まあ、ラノベならここは実は義妹だったりとかするんだけど…」

「そうそう、そんなテンプレ属性は付与されないよねー」

「それかなりの優遇属性だもんね、結婚とかOKだし」


「「「「「あははははっ!(セーフ)」」」」」


 なんだろう、女子生徒じょしの皆に妙な安心感みたいな…弛緩しかんした雰囲気が漂う。


 その時、ポケットの中のスマホが震えた。確認すると真唯からのメッセージ。


「どうしたの?佐久間君」


 隣に座っていた数寄すきさんが尋ねてきた。そこで僕はクラスみんなに聞こえるようにメッセージの内容を伝えた。


「二組はみたらし団子に決まったそうです」



「お米から団子って作れるんだ…」


 知らなかった…という言葉を言外に含ませつつ誰かが呟いた。


「きっと御簾田みすださんだよ」

「あー、あっちには凄い人いたねー」


「御簾田さん?」


「そうだよ、佐久間君。向こうには子供の頃から料理コンクールで優勝した子ごいるんだよ」


「うわー、そりゃ凄い。これはちょっと勝ち目無かったかな…」


「いや、諦めちゃダメだよ。せっかく模擬店出来るんだし」

「そーそー。勝負とか言ってんのはあくまでセンセー同士!」


 あ、確かに…。そうだよね、僕達が争う訳じゃないんだし…。


「気楽に行こうよ。お米を使った何かでやれば良いんだし」


 それなら…。作り方が複雑じゃなくて誰でも出来るものにすれば…。


「あの…、お米を使ったメニューなんだけど…」


 僕は思い切って一つのメニューを提案する事にした。するとクラスのみんなはあっさりと承諾してくれた。団子のように加工しなくてもよくて、練習すれば作れるようになるもの…。


 作戦会議が終わり、寮に帰ろうとする時に僕は真唯にメッセージを送った。


『一年一組は模擬店でおにぎりを出すよ』



 

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