#8 八木対決!その3。一年二組の才媛

 始めに言っておきます!

 やりたかったんです。ゴメンなさい。



 ◼️ □ ◼️ □ ◼️ □


 その頃…。一年二組では…。


八木対決はちぼくたいけつって言われてもさぁ…」

「使えるの米だけって…」

「でも、調味料はセーフなんでしょ?」

「具無しチャーハンとか?」


 こちらもまた一年一組同様に頭を悩ませていた。米を使った料理…、具も極力使わないとなればおのずと作れる料理は限られる。


「具無しチャーハンは寂しいよ。でも、他にメニューなんて…」

「んー、じゃあ炊きたての御飯に調味料でもかける?」

「いや、それはさすがに…」


 二組もまた料理は浮かばない。しかし、一人の生徒の意見が流れを変えた。


御簾田みすださん、何か良いアイディアはない?」


 一人の生徒に質問が飛んだ。


「え?わ、私?」


 あまり目立たない女子生徒に注目が集まった。


「アイディアって程のものじゃないんだけど…」


「え!あるの?米と調味料だけで出来るものが!?」

「マジでっ!?」


 女子生徒達が食い付く。


「それさ、すぐに出来るもの?」


「う、うん。材料と道具さえ有れば…」


「じゃ、じゃあさ、今日はもう授業ないんだし、H《ホーム》・R《ルーム》終わったらみんなで調理室行こうよ!」



「えっ?ハンディミルでお米を?」


 一年二組の女子生徒達は何をするのか分からないけど、とりあえず言われた通りに生米をハンディミルにかけた。


 機械音と共にガリガリと米を砕く音が響く。そしてそれは米の粒が小さくなっていくと共に摩擦音は小さくなっていき、生米が粉末状…つまり米粉こめこになると音がしなくなった。


「お米を粉に…」


 そして御簾田と呼ばれた女子生徒は米粉に水を加え練り始めた。何人かの女子生徒も同じように作業に加わる。


「それを沸騰したお湯に入れて茹でて下さい」


「オッケー」


 他の女子生徒に茹でる作業を頼み、御簾田自身は鍋に水を張り砂糖や醤油を加え熱を加え始めた。そして別に用意した白色の水を少しずつ加えていく。


「うん…。こんな感じで…」


 ガステーブルの火が消された。


「こっちも茹で上がったよ!」


 手伝っていた女子生徒から声がかかった。湯気を立てている出来たての団子が皿に盛られている。


「本来ならこれを串に刺して、とろみをつけたこのあんをかけるんだけど…。今日は串が無いから団子に直接この餡をつけて食べましょう」


 この一連の調理を主導していた女子生徒はそう言って作業を終えた。


「ね、ねえ…、これってまさか…」

「く、串に刺してあの茶色いトロっとしたあんをかけて食べるんだから…」


「そう。米粉で作ったみたらし団子…です」


「「「や…、やっぱりぃぃっ!!」」」


「だ、団子って…、ああやって作るんだ…」

「し、白玉粉じゃないの?」

「それじゃ白玉団子だよ」


 女子生徒達は口々に色々な…、それこそ十人十色の感想を述べている。そして食欲に突き動かされる者も出てくる。


「ちょ、ちょっと食べてみよっ!」


 一人の女子生徒がデザートフォークで団子を突き刺し口に運んだ。


「こ、これは…」


 女子生徒は口に運んだ団子を咀嚼そしゃくし、飲み込んだ直後に一言だけ呟いて言葉を止めた。そして油が切れた機械仕掛けの人形のように動きを止めた。


 一秒か、二秒か…動きを止めた女子生徒だったが、やがてぶるぶると体を震わせ始めた。そして…。


「う…、〜い〜ぞぉぉぉッ!!」


 食べた女子生徒が巨大化し目からビーム、口から炎を発しながら校舎を破壊する勢いで叫んだ。…実際に破壊している訳ではないのだがそれは勢いと言うものである。


「わ、私もっ!!」


 そこにいた女子生徒達が次々に団子に手を伸ばす。その中には佐久間真唯の姿もあった。


「美味しい…」


 思わず真唯も呟いていた。


「これで後はこのみたらし団子がより良くなるように味の調整とかをしていくつもりだけど…」


「す、凄いよ!!御簾田みすださん!」

「お米をこんな風に使うなんて…」


 一年二組の女子生徒達は盛り上がっていた。


「…お兄ちゃん。凄い人がいるよ…。お米でお団子を作って…。完成レベルも凄く高い…」


 真唯が呟くのも無理は無かった。米を使って模擬店に出す料理を作れと言われてその日のうちにこのみたらし団子を作ってしまった女子生徒。しかも、本番当日に向け磨きをかけ完成度を上げていくという…。


 彼女こそ幼い頃から数々の料理コンクールで勝利を重ねてきた料理の天才児、御簾田安仁子みすだあじこ…その人であった。

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