#5 午後の授業へ。


 僕は真唯の手を取って聞き取りやすい声でハッキリと言った。


「僕の…、大切な人です」


 しーん…。今の今まで賑やかだった場が一気に静まり返る。誰も言葉を発さない、まるで時が止まってしまったかのようだ。しかしそんな静寂も、凍りついたような雰囲気も永遠に続く訳ではない。


「そして時は動き出す…」


 なぜか体育の出井女でいお先生の声がしたような気がするけど…、気のせいだよね?


 きゅっ。


 握っていた真唯の手が僕の手を握り返す。その感触に僕の意識が集まる。小さくて柔らかい、真唯の手…。


「「「「「ええええ〜っ!!!」」」」」


 申し合わせたように周りから一斉に声が上がった。


「そ、そ、そ、それって…つ、付き合ってるって事?」

「い、いつの間にッ!」


 動き始めた時間は真唯と僕だけのものではでなく周りの女子生徒達にも同様で、次々と戸惑いや質問の声が飛び交っている。


 一方、僕らはそんな大多数の声に呑まれてしまっていると言おうか、対応に苦慮すると言おうか…ただただお互いの手を強く握り返し合うのが精一杯。それだけが今ここで感じられる心の支えとなるものだった。


 きいぃ〜ん、こおぉ〜ん、かあぁ〜ん、こおぉ〜ん♪


 鐘の音が校内に響いた。


「おめえら、何やってる!教室に早く入れ、授業始めっぞ!」


 どうやら次の授業の先生の声のようだ。


「あっ!マズっ!!」

「野沢先生来ちゃった!」

「さ、佐久間君っ!早く教室戻ろっ!」


「あっ、はいっ。じゃ、じゃあ真唯、また後で…」


 ウチのクラスの生徒達が慌てて教室に戻ろうと提案してきたので、真唯に一声かけた。


「うん…。修(お兄ちゃん)…」


 最後が小声で聞き取りにくいものだったけど真唯はしっかり僕の名前を呼んでいた。



「おめえらが新しい生徒の…、佐久間と西野だな!よろしくなっ!オラ、わくわくしてきたぞ!」


 そんな独特の口調をしているのは現代社会を担当する野沢先生。開口一番、元気な挨拶で始まった五時間目の授業が教室で行われている。しかし、なぜかクラスの女子生徒達が時々僕の方をチラチラと見ている。…が、しかし何事か起こる訳ではない。


 逆に言うとそれ以外には目立った事もなく、授業は滞りなく終了。授業中気になった事と言えばクラスメイト達の午前中にもたまにチラッと見てくるような人はいたけど、午後はさらに増えたと思う。


 そして六時間目、本来なら通常授業の予定だったが一学年の全てのクラスが集まり学年共通のH《ホーム》・R(ルーム)となった。その為、会場となる体育館へ向かった。


 その途中。他のクラスの女子生徒達が僕に声をかけてこようとした。しかし、ウチのクラスの女子生徒達が僕を中心に円陣を組み、それを未遂に終わらせる。


「佐久間君を死守するのよっ」


 合言葉のようにクラスメイト達が口にしている。


「が、頑張れば私が…」

「ふ、二人目になれるかも…」


 良くは分からないが気合が凄い。耳に着けたイヤホンから美晴さんと尚子さんの声が聞こえてくる。


「なあ、シュウ。教室外移動の時、オレ達がそばに張る事にするか?」

「ええ、修さんがあまり物々しくしたくないと言ってましたが…。用心しておくに越した事はないかも知れませんわね」


 お二人には少し離れた位置にいてもらえるようにお願いしていたが、今の状況は護衛するには好ましくない状態なのかも知れない。


「それについては…放課後に相談させていただいても良いでしょうか?」


 僕は襟元についたマイクにそっと告げた。


 □ ◼️ □ ◼️ □ ◼️ □ ◼️


 次回、抗争勃発?


 『#6 八木対決!!?」。お楽しみに。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る