#7 リスタート高校生。

 入学式のようなものに出席し、体育館で少しの挨拶をしただけ。


 僕の高校生活の初日スタートは逃走劇から始まった。河越八幡女子高校での本格的な活動開始は二日目からとなった。


 昨夜は河越八幡警察署の柔道場に泊まる事になった。以前と同じように夕食を食べる時には婦警さん達が集まった。畳の上に座り皆で思い思いの食事をする。


「佐久間君、コナをかけるという言葉を知っているかい?」


 緑茶を飲んでいた一山さんが不意にそんな事を言った。


「いえ…、知りません」


「そうか。一言で言えば口説く為に声をかけるといったようなところだ」


「えっ?口説く…。ぼ、僕はそんなつもりでは…」


「それがね、そうでもないのよ」


「崎田さん?」


「前…、ウチの久能ちゃんに手を振り返した事があったわよね?」


「あ、はい。ミラーリングでしたよね?」


 相手と同じ動作をする事だ。以前、警備についていた婦警さんが僕に手を振ってくれた時に振り返して…。そうしたら久能さんが積極的になった、僕が彼女に好意を持っている…そんな風に感じたようで…。


「でも、あれは…」


「ああ、言っていたね。妹さんに振り返したと」


 再び一山さんが話始めた。


「はい。なので…」


「だが、他の生徒達はそんな事情を知らない。受け取り方によっては自分が手を振られた、自分に好意を持っている…そう感じた者もいるかも知れない」


「そ、そんな…」


「あのくらいの年代は良くも悪くも純粋だ。ましてや君は天然モノの男性…、感受性豊かな者にはさぞや衝撃的だろう。運命的な出会い、そんな風に思っても不思議ではない」


 そう言えば…。女子生徒の中には『私に手を振った』と言ってた人もいたっけ…。真唯ちゃんに向けて手を振ったものだけど確かにそう受け取られてはいない。


「まあ、仕切り直しだ。逃してくれた校長先生のファインプレーだ。あのまま学校内にいては女子生徒達が押し寄せていたかも知れない。幸い一晩おけば少しはクールダウンするだろう」


 浦安さんがフォローするように言った。


「浦安(やっ)さんの言う通りだ。だからこそ…、だからこそだ。明日が大事だ。簡単ではないだろうが適切な距離感に戻すんだ、佐久間君」


 一山さんの言葉が印象的だった。



「佐久間修です、よろしくお願いします」


 早朝に登校した僕は校長室へ。そしてH《ホーム》・R《ルーム》の開始時刻になり担任の先生の後についていった先は一年一組、僕は今日からここで勉強していく事になる。早速僕はクラスで軽い自己紹介をした。


 仏頂面でも無表情でもない最低限の笑顔を心がける。だが、それが一番難しい。頼りになる近しい人でもいれば良いんだけど…、残念ながら真唯ちゃんは二組。一人で切り抜けないといけない。とても軽い笑顔なんて出来ない、緊張感の方が先に立った。


 それともう一つ、先生から意外な事が聞かされた。。実はもう一人、このクラスに転校生が来るらしい。今は僕が先程まで滞在していた校長室とは別の場所で転入初日に行う手続きをしているらしい。なるほど、顔を合わせなかった訳だ。


 短い僕の挨拶だったがクラスの人達から盛大な拍手で迎えられた後に僕は先生から最後列、そして窓際から二列目の席に着くように指示を受けた。なんだろう、アニメやゲームに出て来る男子生徒が座るようなポジションだ。


 それにしても熱烈な歓迎だ。あまりの歓迎ぶりに僕は困惑半分、嬉しさ半分といったところ。席に向かう際にはクラスの生徒達の中には手を振ってきたりする人もいる。しかし、こういうところでうかつに手を振り返ししないように気を付けた。


 振られた手やかけられた声に対して小さく会釈を返す、僕は相手が不快にならない程度には応じていく。おそらくだけど当たり障りない対応は出来たと思う、僕は席に着いた。隣の席の子が小さな声で『よろしく』と声をかけてきた。


「こちらこそよろしく」


 ひそひそ声にはならない程度の大きさの声で応じた。学校側が気を使ってくれたのか眼鏡をかけた長い黒髪の大人しそうな女の子だった。少し安心した。


 その時、教室の扉をノックする音がした。


「あら、丁度来たようね。皆さん、新しくもう一人新しい生徒の方です。温かい拍手で迎えて下さい」


 先生が扉を開けると一人の女子生徒がいた。


「えっ…」


 その女子生徒は白い髪、白い肌…。そして真紅あかい目をした不思議な印象を受ける生徒だった。


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