#4 全校生徒の前に立つ(後編)
「初めまして、今日からこの学校でお世話になります。佐久間修と申します」
ステージに立った僕はまずここまで話し、いったん言葉を切った。噛まずに言えた、少し嬉しくなる。スピーチは得意ではない、長くは話せない事は自分でも分かっている。それに話す機会なら卒業までかなりの期間があるんだ、なにも今日全てを話し尽くさなくたって良いんだ。
「慣れない事も多く、分からない事ばかりですが皆さんよろしくお願いします」
そう言って僕は頭を一礼した。頭を下げたのは礼儀としての意味もあるが、正直に言えば体育館にいる全校生徒の皆さんを直視する勇気が無いというのもあった。頭を下げていれば誰も視界に入れなくて済むという後ろ向きな理由だった。
しかし、そんな褒められたもんじゃない心掛けの僕に学校の皆さんは再び温かい拍手で応じてくれた。それがとても嬉しく、同時に安堵感に包まれてくる。頭を上げると、真正面の最前列に真唯ちゃんがいた。
(真唯ちゃん、目の前にいたんだ。緊張して僕はそんな事にも気付いてなかったよ…)
真唯ちゃんは優しく見守っていてくれて、僕はそんな彼女と視線が合う。そうしたら真唯ちゃんが小さく手を振ってくれた。
(真唯ちゃん)
僕はそんな彼女の手を振る仕草が嬉しくて小さく手を振り返した。つい嬉しくて頬が緩むのが自分でも分かる、多分僕は微笑を浮かべている…そんな事を思っていた。
「「「きゃあああああっ!!!!?」」」
いきなり歓声が上がった。その勢いたるやガソリンの池に火種を投げ込んだかのようだ。爆発炎上、そんな言葉が頭に浮かぶ。
「い、今ッ!見たッ!?」
「手、手を振ってくれたっ!」
「あ、あれ、私に?」
「違うっ!私によっ!」
「微笑みまで浮かべてたわっ!!」
「ヤバい!ヤバいよぉ…」
なんだが生徒の皆さんの様子がおかしい。
「ま、まずいわ…」
横に立っていた校長先生が何やら呟き、マイクを自分の方に向けた。
「では、本日の特別集会を終了します。佐久間修君が退出されますので、盛大な拍手でお送り下さい」
わああああっ!!
パチパチパチパチ!!
再び体育館内が喧騒に包まれた。
「さ、さあ!舞台袖へっ!」
急かされるまま僕はステージを後にした。美冬さんと尚子さんと合流すると校長先生が真剣な表情で話しかけてきた。
「きょ、今日はこれ以降の予定を中止して引き上げた方が良いでしょう。生徒達に異常な興奮を示している者が見受けられます。学校内ではなく、警察の方に身をおける所はあららますか?」
「ああ、それは大丈夫だ」
美晴さんが応じる。
「では、今すぐに」
「分かりましたわっ!修さん、行きますわよ!」
そう言って尚子さんが僕の手を取った。そのまま体育館の裏口に向けて駆け出した、後ろは美晴さんが固める。
「では、予定を少し変更して集会を続けます。佐久間君は手続き等がまだ残っており………」
裏口を出る時に校長先生が再びスピーチを始めていた。おそらくこの間に学校を脱出しろという事だろう。パトカーに走る。
「シュウ、
「はいっ!」
車に乗り込むと言われた通り身を隠した。
「出すぞッ」
ゆっくりとパトカーが動き出した。
「やっぱりいますわね」
「ああ、いるいる。テレビ屋どもはシュウを完全マークしてるな。まあ、寮生活と記者発表してるから乗ってるなんて思わねーだろうけどな」
しかし、なんだったんだろう。急に学校を脱出させるなんて。僕はそんな事を思いながら車に揺られていた。
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