#3 鉄馬《バイク》北上。

 4月29日、祝日。午前11時半…。


 関越自動車道を北に向け疾走するグラマラスなアメリカンバイクに乗る黒色のスーツの女性。


「見えてきたな。プリティ、もうすぐ高崎だ」


 ヘルメット内のインカムから多賀山さんの声がする。


「高崎?想像以上に早かったです」


「ああ、高崎に着いたらパスタでも食っていこうか」


「パスタですか」


「そうそう、群馬はパスタや焼きそばの店も多いんだぜ。多賀山タガに聞いたんだけどな」


 電波で飛ばした音声がこれまたインカムから聞こえてくる、車で追走する大信田さんの声だ。


 ミシンで縫った糸のようなセンターラインが次々と後ろに流れていく。周りに視線をやれば景色もまた近くは早く、遠くはゆったりと動いている。


 多賀山さんが進路を左に取った。高速道路を降りるようだ。


 

 高崎市の中心地から少し離れた場所にその洋食店はあった。店名が記されたプレートには『かぼちゃ屋』とある、個人で経営されている洋食店がそこにあった。


「す、凄い量ですね」


 テーブルに置かれたパスタを見て僕は思わず呟いた。


「ああ、有名な店でな。味良し、量良し、値段良し。プリティのような男子には良い店なんじゃないか?」


「でも、いつ来ても驚かされるな。まさかこんな方法で盛り付けてあるなんてなあ」


 食パンを一斤まるごとくり抜いてそこにナポリタン、さらに上面をとろけるチーズを乗せ焼き目を入れた物が盛られた大きな皿を見ながら大信田さんが呟く。


「まだまだ!群馬には他の街にもこういう店が数多くあるんだ」


「よく見つけたもんだな、多賀山(タガ)」


「ああ。バイクは小回りがくからな。思いついたらすぐその場に行く事が出来るんだ。それに情報がSNSにアップされたりする事も多い」


「やっぱり良いですね、バイク」


「おっ、やっぱりそう思うか?プリティ」


「はい。前々から憧れていましたけど改めて乗りたくなりました」


「ならプリティ、しばらく警察署しょに通ってこい。免許センターでの一発試験に通るように鍛えてやる」


「えっ、良いんですか?」


「ああ」


「ははは。プリティ、気を付けろ。多賀山タガはバイクと射撃に関しては鬼教官になるからな。あ!でも大丈夫か、年齢は?」


「はい、5月6日が誕生日なので」


「それなら二輪免許の受験資格は満たせるな」


「それにしても5月6日か…」


 大信田さんがあごに手をやりながら何事か呟いた。


「この日は振替休日だったな。そしてプリティの新しい生活が始まる前日、警察寮りょうに滞在するのもおそらくこの日が最後だろう」


「…多分、そうなると思います」


 そうか、そうだよな…。新しい生活が始まればどこかに移らねばならないんだ…。お世話になった皆さんと別れて…。


「プリティ…。そんな湿っぽくなるな、それよりも…」


「それよりも…?」


 大信田さんの含みのある言い方が気になった。


「プリティの退寮日、それに誕生日…。そして振替休日…。こりゃハンパなモンじゃ終わらねえ、クレイジーな一日になるぜ」


「ああ、誕生祝いに送別会もプラスして派手なパーティになりそうだな」


 パスタを食べる手を止めて大信田さんと多賀山さんがニヤリと笑った。それはまるでいたずらをたくらむ少年達のようにも感じられた。

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