#4 面接一報。


 5月1日。午前10時過ぎ。


 僕は警察署の裏手で多賀山さんによるバイクの乗車訓練を受けていた。


「視線を常に意識しろ。運転免許試験は上手い運転を求めてない、安全な運転が絶対の評価だ。スピードもいらない、技術も一般人が出来るものしか必要ない」


 ヘルメット内のインカムから多賀山さんの声がする。


「一時停止、その後に周囲の安全確認だ。その時は目を向けるんじゃない、確認する方向に鼻を向ける意識を持て」


 装備を外した白バイに乗る一般人なんて他にはいないだろう。それにしても…。


多賀山ダンディーさん、そもそもこれ大型自動二輪じゃないですか?」


 僕はお借りしたバイクに対する疑問を投げかけた。


「ああ、そうだ。だが心配するな、昔のと違って今はかなり軽量化されている。中型と大して変わらねえ、昔の重いのは生産終了してるからな」


多賀山タガッ!プリティ!」


 練習している僕らに大信田さんから声がかかった。


署長ボスのお呼びだぜ」



「河越八幡女子高校から電話が来た」


 署長室で龍崎さんが開口一番そう言った。


「明日、面接をしたいそうだ。11時にまた電話をくれるそうだから詳細はその時に聞くと良い」


「あ、はい!ありがとうございます」


 僕はお礼を言い、署長室で電話を待たせてもらった。話の通り時計の針が11時を指すと電話が鳴った。


 明日の午前10時に学校内で面接、しかし肩肘張らずに来て欲しいとの事。


「ありがとうございます。では明日、よろしくお願いします」


 そう言って電話を切る。


「プリティ。明日はバイクで送っていく。バイクに乗るようになってから他人の運転を見るとまた違った事に気づくものだ」


「ありがとうございます、よろしくお願いします」


 そして翌日、僕は河越八幡女子高校に向かった。迎えてくれた校長先生は穏やかそうな初老の女性で、朝の通学時間帯を避け生徒達の目に極力触れぬように配慮もしてくれていた。


 面接も確かに厳しいものではなく、僕の現状についての確認の意味合いを強く感じた。


「それで面接の結果はいつ分かるのでしょうか?」


 僕は面接を終えた時に校長先生に尋ねてみた。いつ連絡が来るか分かっていれば昨日のように二度も手間をかけさせずに済む。


 すると校長先生は微笑んだ。


「合格よ、佐久間君。あなたの入学を許可します」


「えっ!?ご、合格ですか?」


「ええ。確かに今、男子生徒は志望すれば全入ぜんにゅう時代…。それ自体は否定しないけど良くない男子も少なくないのよ。だから私はあなたの心根を見させてもらったの」


 校長先生はにっこり微笑んだ。


「そうだったんですか」


「準備が必要だから連休明けすぐではないでしょうけど、なるべく急がせるわね」


「あ、ありがとうございます!」


「ふふ。入学の日を楽しみにしているわね」


 十五年ぶりの高校復帰が決まった瞬間だった。





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