#2 醜聞炎上。(ざまあ回)


 4月29日、祝日。午前九時。


 今も昔も醜聞スキャンダルというものは世の人々の好物であるらしい。


「はい、こちら現場の庄司です!こちらは貞聖高校の前になります。先日、佐久間修さんの『新しい日常復帰プログラム』の研修が終了する前に勧誘を行なっていた事が発覚した訳ですが取材により色々な事が分かって参りました。まず共謀関係にあるさいたま市の教育長である…」


 テレビ画面にはリポーターが今回の騒動の始まりを語りながら身振り手振りをしている。それも一社だけではない、何社ものマスコミが盛大に貞聖高校の前で大々的に撮影をしているのだ。


 日本中が注目している天然男子、佐久間修に対して交渉期間開始前から勧誘をしそれをネタに入学希望者を集める。しかも高い寄付金を絶対条件にして私腹を肥やそうとした。それだけで既にイメージが悪いのだが、そこに金が絡むとより悪いイメージに拍車がかかる。マスコミによるスキャンダル報道が熱を帯びていった。


「…教育長への金銭の授受もあったようです。また理事長自身も寄せられた寄付金を実質自分だけが使う高級外車の購入に充てたり、意見交換会と称して夜の街での私的な飲食などを開いていたと言います。教職員への福利厚生の拡充と主張していますが、自分達への思いやり予算といった感じです」


 何社ものマスコミが正門前で撮影している中、何人もの集団が学校に押し寄せた。


「やい!何が話題の生徒が入学する事になってるとね!ウチはその言葉ば信じて寄付金に糸目付けなかったんだばい!」

「それを言うたらウチもじゃ!可愛い孫に男をあてがってやろう思うたがじゃ!」

「私のトコは来年入試枠をチラつかせて今のうちから寄付金を迫ってきて!何が一流企業のナキユコーポレーションのご令嬢にはふさわしい教育環境よ!こうなったら貞聖を徹底的にツブすわよ!会社総出でやりますね!」


 テレビカメラは正門前で学校関係者と押し問答を始めた娘を転入させた保護者達の様子を撮影し始めた。


 保護者達は多数押しかけ、また方言などの様子から日本全国から集まったのが見てとれる。寄付金を人は時間を追うにつれどんどん増えていった。



「罷免という事になったよ」


 貞聖高校理事長の鍋尾なべおが受けた電話の相手は疲れた声でそう言った。


 先週、鍋尾理事長と貞聖高校の職員迫池と共に修に面会したさいたま市の教育長は辞任を申し出たが許されなかった。市長、議会の全会一致で罷免される事になった。


 役職を降りる事で事態が収拾できていればいつか返り咲きの目も有ったかも知れない。しかし、あの騒動からたった二日で罷免されたのだ。普通ならこういう事にはもっと時間がかかるものだ。罷免なんて処分が決定するより先に普通なら世論の熱が冷める。いつの間にやら有耶無耶うやむやに…、時間経過による自然消滅や注目されなくなったタイミングで軽い処分を行うのが通例であった。


「そ、それはなんとも重い…。しかも朝イチで処分が通達されたという事は昨日の議会で即日採決されたという事ですかッ!?」


 鍋尾理事長は思わず唇を噛んだ。教育長をはじめとして教育委員会とは良好な関係を築いてきた。また市議会や県議会にも昵懇じっこんの議員もいる。


 しかし、今回のスキャンダルにより議員の誰もが背を向けた。それほどまでに今回のスキャンダルのイメージが悪いようだ。


 大正時代から続く名門、貞聖高校は未曾有の危機にあった。

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