#17 僕達は二人、布団は一つ。

 布団が一組しかない…、その事実に気付いてしまった僕はどうにも落ち着かない。


 兄妹きょうだい、とはいえ真唯ちゃんは真希子さんの娘。父さんと真希子さんは確かに夫婦だったけど、真唯ちゃんは真希子さんの連れ子だ。僕と真唯ちゃんに血のつながりはない。


 そんな事を考えてしまうと真唯ちゃんをさらに意識してしまい、僕は思わずソワソワしてしまう。


「お兄ちゃん、どうしたの?」


「い、いやッ!なんでも無いよ」


 ついつい声が甲高くなる。


「ッ!?何、何か問題が?」


「な、なんでもないっスよ」


 僕は口調がおかしくなっていた。


「そ、そう?」


「そうだよ、何かヘンだよ?」


 そりゃあそうでしょうよ…。女の子とこんなに近くで接した事なんて…。


「あれ…?」


「お兄ちゃん?」


 無かった…よね?無いハズだよ、僕は目立たないタイプだったし…。誰かと付き合った事どころか、こんなに近くに女の子がいるなんて…。


「…そんな事が…あった?」


 なんだろう、何か引っかかる…。誰かが…いた?でも、誰だろう。記憶に無い。そんな近くにいてくれるような人…、記憶違いかな。


「…お兄ちゃん、…お兄ちゃん」


 ゆさゆさと体が揺さぶられている。


「…あ、ああ。真唯ちゃん…」


「どうかしたの?なんか急に…」


 真唯ちゃんが僕を心配そうに見上げている。


「ごめんね、なんか急にボーッとしちゃって…」


 僕は真唯ちゃんに謝った。…でも、どうしたんだろう。いたはずもない誰かの感触みたいなものを感じるなんて…。


「お兄ちゃん、疲れたんじゃない?ずっとカレーを作っていたんだし…」


「…そうだね、そうかも知れない」


 僕は思わず賛同していた。


「じゃあ、お兄ちゃん。布団敷いてあげるよ。少し早いけど疲れてるなら寝た方が良いし…」


 そう言って真唯ちゃんが布団を敷き始めた。


「ふふ、明日早く起きたらいっぱい話をしようね。これでお兄ちゃんいつでも寝れるし。私も早く寝ちゃおうかな」


 そう言って布団を敷き終えた真唯ちゃんが自分の布団の準備をしようとしてピタリと動きぐ止まった。


「ふ、布団が…、一組しかない」


 ああっ、真唯ちゃんも気付いてしまった!



 結局、僕と真唯ちゃんは布団に横になる事はせず、壁際に敷いた布団に座り掛け布団と毛布にくるまるようにして夜明かしをした。


 一緒の布団に寝るというのはさすがにお互い照れてしまったし、かと言って布団は一組しかない。


 だったら寝なければ…、横にならなければ良いんじゃないか…そんな事をなんとなく呟いたらそうしようという事になった。


 十五年ぶりの再会はお互い高校一年生になっていて…。僕はこの時の布団の中でつないだ手の柔らかさと、二人で話しているうちに胸いっぱいになってくる温かい気持ちをきっと忘れないだろう。


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