#15 毛布の下の逃避行。
「佐久間、妹が出来たんだろ?いーなー!!」
年も明け受験シーズンが迫り中学校生活もあと二ヶ月ちょっと…といった頃、クラスの誰だったかがそんな事を言っていた。
「妹と言ってもまだ赤ちゃんだよ。それに何が良いんだ?親の再婚同士なんだし」
「バッカ!!分かってねーなあ?世の中いくら望んでも妹がいないやつがほとんどなんだぞ!ましてや義妹なんて完璧じゃねーか!」
「そういうもんなの?」
「そういうもんだ。それに世の中、『いもうと』というだけで
「あ…、そう」
そんなやりとりがあったのにも理由があって、僕の身の回りでは父と真希子さんが再婚し真唯ちゃんという妹ができたタイミングだったからだ。妹と言っても彼女は赤ちゃんであり生後半年といったところ、よくある妹モノのラブコメになろうはずもないだろうに…。
いずれにせよこのクラスメイトには妹には会わせないようにしよう。危険しか感じない。
……………。
………。
…。
それから十五年余り…。
「ね、ねえ。本当に…?」
「…うん」
妹が同じ部屋に泊まる…、この寮は世帯利用しても良いそうだから家族を部屋に泊めても良いらしい。
問題は真唯ちゃんは法的には妹だけど異父妹でも異母妹でもない。つまり血のつながりが全くない、生物学的には赤の他人。
そんな真唯ちゃんと同じ101号室に泊まる?構造はいわゆるワンルーム、別々の部屋に泊まる事も出来ない。
うわ…、どうしよう?プライバシーも何もないぞ。それに…、女の子と同じ部屋で一晩過ごすとかした事ないし…。真唯ちゃん可愛いし…、今夜眠れるんだろうか…。
□
とりあえず騒ぎになる前に寮に戻る事にした。警察署の前には河越八幡署管内の交番から勤務終了者を乗せて戻ってきたハイ◯ースを待機させている。
この待機させているハイ◯ースのパトカーで勤務が終わった婦警さん達を警察署から警察寮に送る。ちなみにこの車に乗せてもらって僕も警察署と寮の往復をさせてもらっている。だからマスコミはこの時間になると警察署の正面入り口に回り、僕の姿をカメラに収めようとしていた。普段は
「よし、シュウ。こっちだ」
署の裏手にある駐車スペース、ここに泊まっているパトカーの一台に僕たちは滑り込む。運転席と助手席に美晴さんと尚子さんが乗った。後部座席に僕と真唯ちゃんが乗り込み座らずに体勢を低く横にして外から見えないようにする。さらに尚子さんが毛布を僕達の上に掛けた。
「二人とも、寮までしばらくの辛抱ですわ」
美晴さんが車を発進させる。今なら警察署正面に寮に帰る僕を狙ってマスコミが集中しているだろう。そうなると外からは女性二人だけでパトカーに乗っているこのパトカーは単なるパトロールに出発するようにしか見えないだろう。
真唯ちゃんがマスコミのターゲットにされるのは避けたい。だからマスコミの目に極力触れないように美晴さん達の力を借りて移動する。
「お兄ちゃん…」
一枚の毛布の下で身を潜めている間、真唯ちゃんはずっと僕の手を握っていた。それはとても小さな、可愛らしい感触だった。
□
「よし、着いたぜ。敷地入り口にカメラがいたからな、見えない位置まで移動してきたぜ」
美晴さんが声を掛けてくる。
「時間は…あと五分ちょっとで
尚子さんが応じた。
「んじゃ、あとは一応用心の為に偽装しとくか。尚子、お前ちょっと自分の部屋にダッシュして何でも良いから取って来いよ。いかにも忘れ物を取りに戻りました…みたいな感じでよ。オレはその間に署のヤツらにシュウが先に寮に戻った事を伝えとくから」
「どちらかと言うと、忘れ物はあなたの担当キャラって感じですわ」
「細けえこたぁ良いんだよ、ホレ!シュウ達はもう少しガマンな」
「「はい」」
「よし、ほら行ってこい」
「しょうがないですわね…」
バタン…。どうやら尚子さんが寮に向かったようだ。美晴さんは誰かに電話をかけている。車内だと電話のコール音や話し声って意外と響くんだな…。
「………。でよ、そんな訳でシュウは先に寮に戻ってる。だから、そっちは下手にシュウを探したりしないでさ、むしろ少し遅れて車に乗ってくれや。マスコミの目をそっちに釘付けにするように。………。そうか、頼んだぜ!あっ!尚子のヤツ、枕を抱えて出て来やがった。何でも良いとは言ったけど、何考えてんだ!と、とりあえず切るぜ!後は頼んだ!」
ガチャ!!息を切らせた尚子さんが戻ってきた。
「お、お待たせしましたわ!」
「なんで枕を持ってきてんだよ!」
「これはあの布団に並べた伝説の枕…、これに勝る価値の物はありませんわ!
「あーあ、コイツ遠い
「「はい」」
「よし、じゃあ後でな!」
僕と真唯ちゃんは車を降りドアを閉めた。ル◯ン三世でおなじみ車体側面に『埼玉県警察』と書かれたパトカーが離れていく。
壁の端から片目だけ出すようにして寮の敷地出入り口を見る。左折のウインカーを点滅させ、丁度一時停止しているパトカーの後ろ姿が見えた。
ブレーキランプが消える。
「真唯ちゃん、行くよ」
僕は彼女の手を握り寮の入り口に入った。素早く、そして見つからないように。
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