#12 大浴場、血に染めて。
「う〜ん、これ良いね。どんどん白くなっていくよ〜」
久能さんが入れていた入浴剤は品質が良いのかお湯にすぐに溶けていく。その久能さんの横で何人かの婦警さんが『そ〜れそれ♪』と楽しそうに手でお湯をかき回すような動作をしている。お湯の変色はたちまち浴槽の隅々にまで及んだ。
「あはっ、すっかり白くなったぁ♪」
「じゃ、じゃあ、いよいよ…」
「で、でもいざとなると恥ずかしいね…」
「だ、誰が先に行く?」
期待半分、不安半分といったところなのだろうか今にも押し寄せてきそうだった婦警さん達の勢いが弱まった。
それと言うのも…。
「ち、近づけるのは良いとして…」
「尚子みたいに大きくないからなあ…」
「貧相って思われたくないし…」
婦警さん達は自分達の体を見ながらそんな事を言っている。尚子さんが大きい…?何か大きいの?あっ!!…ハイ、分かりました。スク水が窮屈そうです、いっそのこと布面積の少ないものの方が良いかも知れませんね。
しかしそんな婦警さん達が浴槽に入るのを躊躇していたのもつかの間、意を決して入って来たのはやはり美晴さんと尚子さん。そして久能さんが続く。そして婦警さん達が浴槽に入り始める。
しかし緊張があるのか足だけ入った状態で立ったままだ。
「お、同じお湯に入っちゃったあ…」
何やら感動している人も少なくない。急接近はないものの浴槽の広さにも限りがある。何人も入ってくれば自然との僕との距離が詰まってくる。急接近が無いのがちょっとした救いだ。
「私、行く…」
久能さんが一歩前に出る。
「操っ!ム、ムチャだよ!」
「そんなぺたんこじゃあ!」
何人かの婦警さんが制止の声を上げる。
「胸部装甲の厚みが戦力の決定的差でない事を教えてやる」
□
さらに進み出た久能さんは他の婦警さんが言うようにスリムな体型だった。なんと言うか…、水の抵抗が少なそうな魚に例えればサンマやイワシのようなボディ。少なくとも威圧感漂うようなボディではないので僕には幸いだ。近づかれたらどうなるか分からないが、距離をとっていれば問題は無さそうだ。
だが次の瞬間、久能さんはすっと身を沈めた。水音がわずかに立つ。
「体を湯の中に沈めたァァ!」
「そ、そうか!白濁したお湯に身を隠して…」
「あれならアタシみたいなペチャパイでも10分は戦える」
婦警さん達が感心している。
そしてお湯から首を出しているだけの僕と久能さんの目線が同じ高さになった。正面から見つめ合う形。
「く、来る…」
僕の中に直感めいたものが働き、久能さんが仕掛けてくる事が予想出来た。
すう〜〜〜っ。
お湯の上に首だけ出した状態で久能さんが滑らかな動きで接近してくる。黒髪が白濁したお湯の上を滑る、背ビレを水面に出したサメが襲ってくる有名な映画があるがまさにあんな感じだ。
「せっ、潜行ッ!?」
「そうか、水中戦仕様のスク水の特性を活かして…」
「なるほど…、良い作戦だ」
バシャッ!バシャッ!次々に婦警さん達がお湯にその身を沈めた。そして接近を開始する。
「戦いは数だよ、兄貴ッ!」
そんな声が聞こえてくる気分だ。しかし悠長な事は言っていられない、久能さんが目の前に迫っていた。
□
「く、久能…さん?」
首から上だけ姿が見えている久能さんが目の前に来た。無表情なのでその考えている事は良く分からない。
「そこっ!!」
「
白濁したお湯の中、予備動作無しに振るわれた久能さんの手を僕は直感的にかわした。
「「「かわしたッ!?」」」
婦警さん達の驚きの声。
「ば、馬鹿な!タイミングといい、白濁したお湯の中から仕掛けた
「にゅ…
「まっ、まさか一度胸元を見た相手なら次の行動を予測出来るという…
「でも、そうじゃないと説明がつかないわ!」
「だけど今は操はスク水を着ていた!直接は見られていない、布越しだっ!」
何ですか、その『にゅうタイプ』って…。
「ッ!!忘れたんですのッ?」
尚子さんが叫んだ。
「修さんは一度、シャワールームで操と鉢合わせしていますわ!もしかするとその時に…」
「「「す、既に見切っていたのか…。操の動きを…」」」
「で、でもよォォ!み、操だって…」
美晴さんが何かを言いかけている。…というよりこの状況をなんとかしてくれませんかねえ」
「しかし、私も
久能さんが何かを叫び、さらに身を沈め口元あたりまでお湯に身を沈め僕を追尾してくる。そしてさらには半円状に僕を包囲しつつ接近する婦警さん達が…。
「んっ?」
急に追尾しようとした久能さんが動きを止めた。口元に手をやっている。すると掴んだのは一枚の白いタオル。
ああ、なるほど!お湯も白いもんだから水面に漂っていたのに気づかなかったんだな。…ん?あのタオルって…、まさか!?
「こ、これはァァッ!!」
ザバァッ!久能さんがむんずとタオルを掴みながら立ち上がった!
「さ、佐久間さんにッ!佐久間さんのモザイクがかかるところに直接巻かれていた布切れが!布切れがァァッ!!」
久能さんはタオルを握り締めた手を顔の目前にまで突き上げ
「あ、あの…。僕のタオル…」
腰に巻いていたものが無くなり、どうにも心細くなった僕が声をかけたのだが久能さんは糸が切れた操り人形のように動きを止めた。
「ど、どうしたの?」
「
周りの婦警さん達も久能さんを心配そうに見上げている。
するり…ばちゃんっ!
久能さんが手にしていたタオルが抜け落ち僕の目の前の水面に落ちた。慌てて拾い、腰に巻く。
ぽたっ…、ぽたっ…。
タオルを拾い腰に巻いていたら何かが水面に落ちる音がしたので目の前を見ると赤い粒が白い水面に落ちていく。何事かと思って見上げると…。
「く、久能さんっ!」
久能さんが鼻血を流している。
「ま、まだだ…、まだ終わら…」
ぽたっ、ぽたぽたっ!ぽたっぽたたっ!!
だんだんと鼻血の勢いが、そして量が増していく。
「て、天然男子にッ!栄光あれーッ!!」
ぶわあっ!
大量の吐血ならぬ、大量の鼻血。そしてゆっくりと仰向けに久能さんが倒れていく。まるでスローモーションのように…。
ばしゃあんっ!
そして水面が久能さんの体を受け止めた。
「く、久能さあああんッ!」
「「「みさお〜〜!!!」」」
慌てて久能さんに近寄ると久能さんは周りのお湯を赤く染め、そして満足そうな顔で逝っていた。命をかけて何かを成し遂げた烈女の『やりきった』というような
とりあえず、久能さんを救助する為、入浴はこれにて終了となった。
後で知った事なのだが、入浴を勧められた時に僕かまなんの気無しに『みなさんに後でよろしくとお伝え下さい』と言ったのがいけなかったらしい。
その言葉を受けて、婦警さん達は『大浴場で』で『後でよろしく』やりましょうと思ってしまったらしい。しかし、これは立派な男性側からのOKサインと認識されるらしく、法律的にも問題ないらしい。
「あっ、そうか!」
そんな風に思った
□ ◼️ □ ◼️ □
【あとがき】
ガンダムしたかったんです。どうしても。
次から柔道場での柔道合宿になります。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます