#11 スク水?ブルマ?部位作戦。(お風呂回だよ、全員集合)


 美晴さん達の熱心な勧めもあり、僕はさっそく入浴する事にした。居住棟から出て食堂や大浴場がある建物へ。一階の食堂で寮母の吉良さんに挨拶する、入浴後に改めて食堂に来る事を伝えると、


「今日は歓迎会も兼ねた夕食だよ。栄養バランスとか度外視して作ったから期待して良いよ!」


 あれ?寮に住むみんなの健康と栄養を守ってるんじゃないの?僕は密かにそんな疑問を感じたのだが、そこは言わぬが花と言うもの。楽しみにしてます、と応じた。美味しい物って『塩糖脂えんとうし』って言うもんなあ…。塩分、糖分、脂肪分、確かに無いと美味しくないよなあ…。何の味もつけないで野菜を食べる事を想像すると…、ツラそうだなあ…。


吉良さんとの会話を終わらせて二階へ。『大浴場』と書かれたプレートが見えた。


「僕の後に皆さん入るんだし、急いで終わらせちゃおう」


 頭を、そして体を手早く洗っていく。手早く泡をシャワーで流した。浴槽に浸かろうとも思ったがやめておく。なんたって人数が多いんだ、この後は夕食兼歓迎会って言ってたし早めに上がろう。そう思って脱衣所に向かった時に事件は発生した。


「総員、覚悟は良いな!出るぞッ!」

「打ち合わせ通り配置に!後は流れで、行きますわよ!」


「き、緊張してきちゃった…」

「大丈夫、みんなそうだから!」

「こんなチャンス二度と無いよ、やろう!」

「そうだよ、裸じゃない!携行戦闘服モビルスーツ着てるんだし!」

「旧型スク水、別名『水陸両用戦闘服』


 浴場から脱衣所に向かおうとした僕は異変に気付く。くもりガラスの向こうで何やら美晴さんと尚子さんの凛々しい声、それだけじゃない、大勢の婦警さんの声までする。間違いない、脱衣所にみんながいる!な、なんで?どうして?


「「「よーし、それじゃあ…」」」


 う、うわ!マズい!?く、来る!


河越八幡署決死おとめ隊!押し出せぇ〜ッ!!!」


 その瞬間、僕は回れ右!後方の大浴槽にダイブ!僕が派手な水音を立てて着水した後にガラガラッとガラス戸の音が響いた。


「「「佐久間く〜ん♪」」」


 大浴場に婦警さん達の声が響いた。



 飛び込んだ浴槽の中、僕は水面に向けて上体を浮かばせる。呼吸の為に首から上を出し、下はお湯の中だ。同時にタオルを腰に巻く。この一枚が僕の尊厳とか色々大事なモノを守る最後の防衛ライン、便りないけどコレに全て頼るしかない。


 一方、婦警さん達はいつの間にか横2列に並んでいる。残念な事なのか、ホッすべきところなのか全員裸ではなく水着だった。


 しかしその水着、特徴的な形をしている。すそに切れ込みがある昭和か平成と呼ばれた時代に採用されていたという旧型と呼ばれる水着である。後で知った事なのだが、これは形式番号『MS-O5』、通称『旧スク』、水陸両用携行戦闘服とも呼ばれる由緒正しい水着なんだそうだ。ちなみに現在でも使用されている形式の裾がハーフパンツ型の水着は『旧スク』に対して形式番号『MS-O6』通称『新スク』と呼ばれている。

 他にも携行戦闘服モビルスーツこと『MS』シリーズは様々な形状がある事で知られる。陸戦型携行戦闘服りくせんがたモビルスーツ、通称『体操服』も『旧型ブルマー』と『新型ハーフパンツ』。汎用型携行戦闘服『一型セーラー』と『二型ブレザー』、さらには二型の派生系である現地改修型…着崩した形が特徴的な作戦地域にその名が由来する通称『二型改アキバ』、足回りの靴下ソックスをたるませた『二型改二シブヤ』など様々な物があるそうだ。

 なんでも十五年前の男性消失、通称『三毛猫現象』を運良く生き延びた男性の中の一人に文部科学省勤務の人がいて、この様々な服装の命名や定義付けに定年退職をするまで尽力したらしい。…なんと言うか、他にやる事はは無かったのだろうか?


……………。


………。


…。


 さて、現実に目を向けよう。


 現在、大浴場では婦警さん達が二列横隊で並んでいる。『気を付け』の姿勢が美しいさすが警察官といった感じの見事な整列だった。

 しかしその視線は鋭く、獲物を狙うたかわしの如し。まさに現役の警察官、パトロールの時などは皆さんいつもこうなのだろう。


「さ、佐久間君…。ハアハア…」


 前言撤回、なんか違う気もする。飢えた肉食獣の目かも知れない。自然と僕は後退あとずさり、浴槽の後方まで…壁に背をつける感じで婦警さん達から距離を取る。


「お、あの…」


 僕はおずおずと声をかける。


「ど、どうして皆さんまで大浴場おフロに…?」


「どうして…って、そりゃあシュウが…」


 美晴さんが説明する。


「えっ、ってOKって意味なんですか?」


 どうやら『男性の為の新しい日常研修プログラム』で習うらしいのだが、男性側から女性に承諾の意味を伝える言い回しらしい。

 なんなの、ソレ!うかつな事言えない。


「あれ、でもどうして佐久間君はOKしたねのにそんなに奥にいるの?」


 いいえ、知らなかったんです。OKじゃないんです、そんな気持ちを込めて僕は首を横にブンブンと振る。


「あ〜、分かったぁ♪きっと照れてるんだよ」

「そっかあ〜♪私達、人数多いしぃ〜」


 違います。照れてるのはありますが、何か根本的なギャップを感じます!


「でも、佐久間君が照れてるのに一緒にお風呂入るのは…ねえ?」


 そうです!皆さん、今ならまだ間に合います!


「安心して下さいッ!」

「「「み、みさおッ!!」」」


 そこには警察署内のシャワールームで鉢合わせした事がある久能さんが何か容器のような物を持って仁王立ちしている。


「こんな事もあろうかと入浴剤を用意しました!!」


 そう言って浴槽に容器の中身を入れていき、浴槽のふちからだんだんとお湯は白濁色になっていく…。


「さあ、これでお湯は透き通ってはいません。佐久間さんも我々も心おきなく同じお湯に浸かれるというもの…」


 いや、それ違いますって…。


「あ〜、まあねぇ。でもさ…」


「何ですか?」


「これだとお湯が濁ってて佐久間君の姿が見えないじゃん」


 えっ、気にするのそこ?


「確かにそれはあるかも知れません。しかし、それは些細な事…」


「えっ?」


「お湯が濁ってるんですよね?そうしたらよく見えなくて佐久間さんの体のどこかの部位に触れてしまうかも知れません!!」


「「「それだ!!」」」


 それだ!!じゃないよ!


「そ、そうね…。ど、どこかの部位に…」


「これは慎重に作戦を立ててイかないと…」


「ま、まさに部位作戦…ッ!!」


 作戦立ててる時点で偶然ではないんですが…。しかしコレはどうしたものか…、僕の『部位』は生き延びる事が出来るか…?






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