第4章 日常復帰プラン(後編)in女子寮
#1 延長!?修の署内暮らし。
「ぐうううッ!」
トームラダから最も遠いダールリムルの町に瞬間移動した時よりもはるかにすさまじい魔力の奔流と猛スピードの飛行による風圧を受けて僕は思わず呻き声を上げる。
生身の肉体で耐えられるのか?そんな不安がつのってくる。トームラダから住み慣れた日本へ、僕の住む町である河越市に向かっている。これに耐えれば帰れるんだ、そんな思いでいっぱいになる。僕は
一か月ちょっとか…、ずっと帰っていなかったから真希子さんは…、ああ…まだお母さんとは呼べないのか…心配しているだろうな。
だが、そんな時に異変が起きた。激しく風向きが変わりがちな暴風に僕の身体はバタバタと音を立て千切れそうになっている旗のようだ。乱気流に巻き込まれたかのように激しく揺れ、一秒先にどうなってしまうかも分からないくらいだ。
「ど、どうし…て?」
不安、焦り…、悲鳴すら上げられないくらい身体は
「お気を強く持って下さい」
サマルムーンさんの声。ああ…、そうか!この『
「なら…、しっかり思い浮かぶ場所をッ!!」
河越の町を思い浮かべる。そして強く思い浮かぶ場所を…。
そう思った時、白く強い光が僕の網膜を焼く。あれは赤信号で突っ込んできたトラック!
「ぶ、ぶつかる…訳ないな。じゃ、じゃあ、あの交差点へッ!一番先に思いついたんだからッ!」
瞬間移動する場所を強く思い浮かべるというのなら、一番最初に思い浮かんでビビっちゃうくらいの場所の方がきっと良いに違いない。
「僕は必ず戻る!」
不安や恐怖、とても消せそうにない。だけど、他のもので塗り潰す…大きな声で自分を奮い立たせ僕は奔流の中を突き進む。
それは永遠にすら感じる長い長い拷問のようであった。
□
「少年ッ、気がついたか!?」
目を開けると殺風景な白い部屋、古い建物だからだろうか。なんとなく薄汚れたような印象を受ける。
「署長…さん」
目の焦点がだんだんと合ってくると署長さんや一山さんが僕を覗き込んでいる。
「異常はないと思うんですが、どこか痛かったり苦しい所はありませんか?」
白衣を着た人が問いかけてくる。お医者さんだろうか?
「大丈夫…だと思います」
「うーん、採血とかの結果も異常は見られないし疲れか寝不足、慣れない環境で自覚無く体に疲労がたまっていたのかも知れないね」
「いきなり意識を失ったから心配したぞ。だが、大事でなくて何よりだ」
「ご心配をおかけしてすいません。僕はどのくらいこうしてたんでしょうか?」
「三時間半くらいだな、ほら見えるか?」
そう言って署長さんは円形のレトロな壁掛け時計を指差した。四時過ぎ…、昼休みに意識を失ったみたいだから確かに三時間半だ。
「とりあえず今日と明日の研修は体を休める意味でもお休みにしようか」
やんわりと一山さんが提案してくれた。
□
「そっかあ、研修は明日まで休みかぁ」
寝泊まりしている柔道場の畳の上で美晴さんが
「はい。皆さん、ご心配をおかけしました。体は大丈夫みたいですが、様子を見るという事で明日もお休みになりました」
「そうですか、大事に至らなくて良かったですわ」
こちらはきちんと正座してザ・
「こう言っちゃナンだけどよ、研修の日程が二日伸びたんだろ?本来なら金曜までだったもんな。んで、土日はもともと研修はやらねーからシュウがここにいるのが来週の火曜まで伸びた。つまり四日長くシュウといられるぜ!」
美晴さんは自分の喜びを最優先にしてる感じがする。なんだろう、人間はこのくらい自由に素直になって良いのかな…そんな風にも思う。
「四日間の延長ナイス!また佐久間君と一緒!」
「これで憂鬱な週末も耐えられる!」
「えっ、週末?何かあるんですか?」
僕は婦警さんの一人の憂鬱な週末という言葉が気になり尋ねてみた。
「聞いてよ佐久間君!週末に合同稽古があるんだよー」
「県西部の署から人が集まって柔道の練習をするの」
「んで、面倒くさい事に非番者は自主参加という名の強制参加なんだ」
「そうなんですか…。あれ?そうなると僕は
「「「「あっ!!」」」」
婦警さん達が綺麗にハモる。
「ど、ど、どうするの?佐久間君と一つ屋根の下…じゃなかった一つ署内の下にいられなくなるなんて…」
「そ、そうだよ…。ここに来れば佐久間君と同じ空気が吸えるのに…」
「それよりもここで色々妄想したり、目を閉じれば佐久間君のニオイさえ感じられそうなのに…」
なんだろう、欲望がダダ漏れなんだけど…、あえて気にしないようにしよう。
「ッ!!!!?」
バッ!!美晴さんが座ったままの姿勢で飛んだ。そのままスタッと畳の上に立ち上がる。
「ど、どうしたんですの?」
美晴さんの
「みんな…、待っててくれよ。オレ、
「署長さんの所?」
「ああ、このままじゃ土曜日以降シュウの泊まる所がどこになるか分からなくなるからよォ!」
そう言い残すと善は急げとばかりに美晴さんは柔道場から駆け出していった。
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