#2 やったか!?死亡フラグが盛りだくさん。


「たっだいまー!」


 20分ほどして上機嫌な美晴さんが帰ってきた。


「おかえりー。ねえ、美晴。署長ボスとどんな話したの?」


 婦警さん達が美晴さんに事の顛末を聞いている。


「それなんだけどよォ、こればっかりはシュウの気持ち次第だし…まずは確認だな。実はなシュウ、今週の土曜と日曜はこの柔道場に人が集まって稽古があるんだよ。んで、中には遠いトコから来るのもいてここで泊まり込みするのもいるんだよ」


「あっ、それじゃあ僕は部外者だしここで寝泊り…って訳にはいきませんね」


「そこでなんだけどよ…、シュウ」


 美晴さんの声が少し低くなる。あれ?けっこう良声イケボ


「金曜の研修が終わったら引っ越ししねーか?」


「引っ越し?あ、でも確かに…。どこか泊まる所を探さないといけないですもんねえ」


 確かに警察署の大事な行事なら僕がいては迷惑になってしまうだろう。…とすると、僕の引っ越し先は河越の中心市街地とかになるんだろうか。


「い、いやいやいや!ダメだってソレ!!」

「そうだよ、佐久間君のいない警察署なんてさ!」

「仕事以外に何もする事無くなっちゃうじゃん!」


 いや…、仕事はして下さいね?


「まあ落ちつけよ、シュウがこの柔道場に寝泊りするようになったのって駅前のホテル暮らしを遠慮したからだよな?」


「あ、はい。何十分もかけて送迎とか申し訳ないですし…」


「そーだよなー。シュウはそういう優しいトコがオレとしては良いっつーか、そそるとゆーか…」


「美晴さん…?」


「あ、ああ。すまねー、こっちの話だ。んでよ、柔道場に泊まれねーなら近いトコで寝泊り出来れば良くね…?って思ったんだよ」


「言いたい事は分かりましたわ。でも、そんな都合の良い場所なんてありまして?修さんの実家とか論外ですわ。マスコミのフィーバーっぷりは相変わらずですし…、きっと突撃取材してきますわよ?」


 尚子さんが美晴さんの発想に対し懸念するところを述べる。


「ああ、それはオレも考えててな。だから署長に談判…っつーかお願いをしてきたんだ。あとはシュウがオーケーしてくれりゃ実行に移すだけだぜ!」


「僕が…オーケー?」


 美晴さんが頷いてまたもや良声イケボで問いかけてくる。


「警察の独身寮りょうに引っ越してこねーか?」



「警察の独身寮りょうに…?」


 まったく予想もしてなかった単語に僕はつい鸚鵡返おうむがえしをしてしまう。


「ああ、空き部屋もあるし河越八幡警察署ここからもちけーし!なんだっらたら歩いても来れる距離だしな。それに一番勤務人数の多い日勤者と同じタイミングで署に来るようにすれば皆で車に同乗して来れるから楽チンだぜ?」


「えっ?でも、僕は警察関係者じゃないですし…。皆さんにご迷惑がかかりませんか?」


「そんな事ねーよ。だいたい年末年始とか大事件があると署長ボスとか幹部おえらいさんは家に帰るヒマもなくなるんだ。そういう時は空いた部屋に泊まり込むんだ。だから一人くらい入寮するのは問題ねーよ。どうだい、シュウ?オレと一緒に暮らそう…じゃなかった、寮に来ねーか?警備面でも安全安心だぜ」


 ん?なんか妙な事言ってた気もするが…。僕がどう返事したものか考えていると…。


「それ、イイっ!!マジ最高サイコー!」

「さ、佐久間君、そうして!是が非でも!」

「私…毎日お味噌汁とか作るしッ!!」

「洗濯とかもするよ!パ…パンツとか手洗いしたい…」


 ずいずいずいっ!僕達は柔道場の畳の上で座っていたのだが、婦警さん達が正座の姿勢から膝歩きで距離を詰めてくる。ヤバい、ヤバいぞ…、何かヤバい。このプレッシャー、拒否ノーとは言えない凄みがある。


 ま、まあ警察署から近いのは助かるし、安全面も問題ないだろう。だって警察寮だし…。


「わ、分かりました。ご迷惑でなければ…よろしくお願いします」


 僕は美晴さんの提案に乗る事にした。すると、


「「「「イイ…ヤッハァーーーッ!!!!」」」」


 婦警さん達が歓声を上げた。


「喜ぶのはまだ早いですわっ!!」


 尚子さんが鋭い声を発した。


「そうだ、まだだぜ!これはまだ半分…半分じゃあないか…。残り半分、首を縦に振らせなぎゃならねえのがいる…」


 美晴さんも浮かれるなと言わんばかりに警告の声を発した。二人の声に婦警さん達も冷静さを取り戻した。


「そうね…」

「私達にはやらなきゃならない事がある」

「絶対に負けられない」

「もしダメなら…その時は…」

「今のうちに鑑識を丸め込んでおこうよ」


 なんだか鬼気迫る様子の婦警さん達。明らかに危険な発言もあるけど…。


「シュウ、オレ達ちょっと出てくるわ。今日はもう戻らねえ…、明日会えたら良いな」

「ええ…。修さん、この一仕事を終えましたら…ぜひわたくしと一緒に…」

「アタシ、これが上手くいったら…もう少しおしとやかになるんだ…。佐久間君に見てもらえるような…」

柔道場こんなところになんかいられるか!私はすぐに出発させてもらう!」

「もし上手くいったら…私ね明日が誕生日なんだ…」


 ね、ねえ?何するの?なんか危険なセリフと言うか…、死亡フラグっぽい事をみんな言ってるし…。僕がそんな不安にかられていると、美晴さんは『みんな、行くぞ』と声をかけ婦警さん達全員で柔道場を後にした。


「な、何だったんだろう?」


 僕が呆気あっけに取られていると、勤務を終えた多賀山さんと大信田さんが柔道場にやってきた。


「あれ、誰もいないのか?」

「美晴とか尚子もいないな」


「あ、さっきまでたくさんの人がいたんですが急に皆さんで出ていかれましたが…」


 僕はさっきまでの様子を二人に話した。


「ああ、そりゃ真剣マジになるわ」

「だけどアイツら大丈夫か、ムチャしなきゃ良いが…」


 二人の口ぶりに僕はなんだか不安になって尋ねた。


「な、何が起こっているんですか?皆さんはどこに?」


「ああ…。アイツら…寮のオバちゃんに許可もらいに行ったんだよ。初めてのケースだからな」

「って言うより、女子寮に天然男子オトコが泊まるなんて前代未聞だからなぁ」


 ん?寮のオバちゃん?もしかして寮母さんの許可を取りに行ったって事?って言うより女子寮?


「そりゃそうだろ。男いないんだから」

「そーそー、自動的に全部女子寮になるよなぁ」


「…言われてみればその通りですね」


 今までの緊張感はなんだったんだろう、僕は二人の話に力無くうなずくのだった。

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