#24 世界の半分!?勇者を誘う魔王。


「もし貴様がわらわの仲間となるなら…貴様に世界の半分をやろう…」


 魔王による思わぬ提案。ブルーノはもちろん断るつもりだが、いきなり拒否をしても戦闘に突入するだけだ。何よりこの敵は二匹の竜を従えていたくらいだ、きっとそれよりも強いだろう。…となると、このまま戦うのは不利だ。


 相手はこちらの戦いぶりを見ている、逆にこちらは知らない。一方的に手の内を知られて戦うのは不利でしかない。何とか相手の手の内を探るなり、不意打ちをするなりしたいところだ…


「ふふふ…。何をそう考え込んでおる?妾の言葉を疑うか…?それともスキを見て不意打ちでも仕掛けているつもりかえ?」


 玉座に座り両手を広げて親しげに語りかけてくる魔王。


「何も貴様をだまし討ちにしようと言うのではない。勇者よ、妾と貴様が戦えば共に半端な結果では終わらぬ。あるいは相討ちすらあり得る…。勝つには勝ったが、二度と立ち上がれぬ身体からだになった…とかな」


 魔王はゆっくりと立ち上がる、フード付きのローブに杖を持っている。魔王は魔法使いか…?ブルーノは目をこらして見るが魔王はフードを目深まぶかかぶっており顔形は分からない。


「それに貴様は何も感じぬのか…?妾の元へ討手うってとして旅立ったは良いが誰も共にいないではないか…。今でこそ妾を討つ為に持ち上げられておるが、その後はどうなる?」


「その後…?」


「妾を討った後…、貴様はどんな扱いを受けるのだ?まさか素直に国王の座を禅譲ゆずられて…などと考えてはおるまいな…?」


「そんなものはいらないね。私はお前を倒し、連れ去られたという人々を取り戻せれば…」


「それだけで良いと?」


「そうだ。別に富や爵位、名声が欲しくて来た訳ではない!」


「無欲だのぅ…、だがあやうい危うい…」


「な、何ですって!」


「妾を討った武勇と功績、そしてその無欲な人柄…。民衆はどう思うかのう…?なす術無く滅びの時を待つだけであった王家…、それに対して貴様は救国の英雄。そして無欲で高潔な人柄…、民衆はどちらになびくかのぅ?」


 つかつかと魔王はブルーノに歩み寄ってくる。


「考えるまでもないのぅ…?民衆にとってあるじとは食わせてくれる者、安全を保証してくれる者じゃ…。平素へいそより税を納めているにも関わらず城に閉じこもるしかない王と、無償で魔王に挑んだ者…、貴様になびくのは自明の理じゃ。さて…、そんな時に王や貴族は何を考えるかのう…?自らの立場は維持したい…、じゃが名声のある勇者は…?」


「なるほどね…。自分達の立場を脅かす存在という事ね…」


 自分の進めたい方向に話が誘導され魔王は笑みを浮かべた。しかし、ブルーノは鼻で笑って言葉を続けた。


「でも、お生憎様あいにくさま!アナタを討ったら城に残らずさっさと帰るつもりだから」


「ほう…?何もいらぬと…。そういうやからが一番恐ろしいものだ、我にも…城の者共にとってもな…。…まぁ妾が口出しする事でもないかの…」


「そういう事ね」


 そう言うとブルーノはトントンと軽くジャンプをした。緊張をほぐし、止まっていた身体に再び動くぞと刺激を与える。


「分かっておらぬのう…」


 そう言って魔王はヤレヤレと首を振る。


「故郷にでも戻るというのか?まさか無事に帰れるものか…勇者よ。貴様は死ぬのが望まれておる。魔王を討ったがその時に負った傷が元で…と言った具合にな。良くて領地無しの騎士爵位と言ったところか…?生かすならば飼い殺しにしてのぅ…。そこで妾の話じゃが…」


 いつの間にか魔王はブルーノの近くに来ていた。掴み合うような接近ではない、大きく一歩踏み込めば剣が届くかどうかといった所だ。ここでブルーノは魔王が女である事に驚く、話し方…一人称がわらわであった事から魔王は女かと疑っていたがそれが確信に変わった。


「妾ものぅ…、国を征服するだの覇権だのと言ったものに興味は無くての…。それに貴様にとっても悪い話ではないぞ」


「ハッ!王城トームラダを攻めておいて征服に興味は無いですって?冗談は大概たいがいに…」


「まあ聞くが良い…。もし妾の仲間になれば世界の半分をやろう。そこで貴様が理想的の世界を作ればよかろう。助けたはずの王国に裏切られる…なんて事は少なくとも無くなるのではないか?」


「………」


「それに世界の半分じゃが…、何も僻地へきちとか陸のない海の部分だけをやろうと言うのではない。世界そのもの…、それこそ全ての陸地をくれてやっても良い」


「…どういう事?」


 ブルーノは困惑した。世界の陸地を全て譲るのに世界の半分?魔王はそれを見てニヤリと笑った。


「ブルーノ…、もし妾の味方になるなら貴様には世界の半分、女の世界をやろう。女しかおらぬのじゃ…、どうじゃ…嬉しかろう?妾の味方になるか?」



 魔王がブルーノに誘いをかけた。


 一方、それを受けた勇者ブルーノはといえば、うつむき体をぶるぶると震わせている。


「なっ…、な、何言ってるのよォォーッ!!!」


 どんっ!


 今まで言葉も無く怒りなのか…その場でぶるぶると身体を震わせていたブルーノがぜるかのように突如魔王に近づき突き飛ばしたのだ。


「くっ!」


 魔王は突き飛ばしに来たブルーノをかわす事が出来ずよろめく。二匹のドラゴンとの戦いを見てブルーノの速さを理解していたつもりだったが、それを明らかに上回るものだった。


「そ、そんなモンいらないのよォォーッ!!私…、私…。アタシはねェェーッ!!」


 ひどく激昂しブルーノはまくし立てる。


「オ、オンナなんて必要ないのよォォーッ!生まれた時になかったからってオトコとこれ見よがしに手ェつないで歩いてる存在がぁ、大ッキライなのよォォーッ!だからそんなモノしかいない世界なんてお断りなのよォォーッッッ!!」


「な、なんだと…!」


 全てをさらけ出しふうふうと荒い息をつくブルーノに呆気あっけにとられている魔王。そしてブルーノは再び剣斧を手に取った。


「こ、殺す…。殺してやるわ、魔王…。よ、よくもこのアタシにオンナなんかとしてくれたわね。あんな残酷で思い上がった存在なんかをッ…!!」


 怨恨うらみ…、憤怒ふんぬ…、そういった感情を全て集めたような表情でブルーノは魔王にゆっくりと迫る。しかし魔王はみじろぎ一つせず、それどころかブルーノを受け入れるが如く両手を広げた。


「やめるのだ、勇者ブルーノ…。貴様の思いは分かった…、ならば妾達は尚更なおさら争う事はない…」


「今さら命乞いかしら?甘く見られたモンね!!」


「そうではない…。これを見よ」


 そう言うと魔王は目深まぶかに被っていたフードを取り、その素顔をあらわにした。


「ッ!!?…ア、アンタ…?」


 今度はブルーノが驚く番だった。女だと思っていた魔王、しかしその顔は間違いなく男のそれであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る