#21 超スピード冒険と一騎討ち。
道中に魔物一匹姿を現さない、邪魔する者のいない快適な旅。どうやらこの国にいた魔物が集結しトームラダの城を襲撃したのではないかと防衛戦の後に語っていた町の人がいたが、もしかしたら本当かも知れないなと思う。そのくらい何事もない旅路。
僕は魔法を駆使して旅をしている。具体的には短距離の移動を繰り返す『
おそらく5キロ進むのに一分もかからないのではないだろうか、旅に出て数分後にはトームラダの城はほとんど見えなくなっていた。
二時間もすると山あいの村にたどり着いた。村人に聞けば確かにブルーノさんは来たという。どうやらここから南東にある海峡の下…つまりは海底よりも下を潜る洞窟がありそこを目指していたと言う。
どうやら王城でもらった地図と照らし合わせて見ればブルーノさんは最短距離で魔王を討ちに向かっているらしい。なるほど、効率的だ。
魔王を一日早く討てばそれだけ平和が早く訪れる。旅立ちの時に怪我をした男性や、縋り付いて泣いていた少年を見て魔王打倒を誓っていた彼の事だ。一刻も早く成し遂げたいんだろうな、僕はそんなブルーノさんに感服する。
……………。
………。
…。
「光あれ!」
僕は一度トームラダに戻った。神殿横にある祠のお爺さんに魔法力を回復してもらうと、再び山あいの村へ。
魔法力を回復した僕は再び旅を再開した。村を出て地図を頼りに南東に進路を取る。薄暗い森を通る時には用心を、『
「あれか…」
岬の突端に洞穴があった。入り口付近を調べてみると、下へ下へと穴は続いていて風が流れている。どうやらどこかにつながっているのはやはり間違いないようだ。
このトームラダの国は日本で言う北海道と本州のように北部と南部が海で隔てられている。その二つの島の人々の足をつなぐのがこの洞窟。昔は渡し舟みたいなものがあったそうだが、今は無いそうでこの洞窟を抜けていくのが唯一の南北の島を行き来する方法のようだ。他に洞窟らしきものは無く、海峡の向こうにはこの洞窟を進んで行けば良いようだ。
□
『
海峡の下を
自然洞窟にしては珍しくほとんど一本道。しかし、かなり進んだところで別れ道に辿り着いた。
風は右手から流れて来ているようだ。だが…。
「こっちもなんか気になるんだよなあ…」
そんな訳で僕は左手の道を進む事にして松明に火を着け地面に置いた。この別れ道を左手に進んだ事にした目印にする為だ。そして…。
「
一本道を進んだ先には広い空間が開けていて、そこには一匹のドラゴンがいた。今は犬や猫と同じようにその体を丸め眠っている。
奥は行き止まりか…。眠っているみたいだし必ずしも戦う必要は無さそうだ…。引き返そうかな、そう思ったのだけれど、何やら奥に扉のような物が見える。うーん、ここを守っているのかな…?戦いがあったような跡は無いし、ブルーノさんもここには寄ってないのかな。
「いってみるか…」
僕は戦う事を決意する。だけどここであまり派手に暴れて洞窟が崩れたりする事は避けたい。なるべく静かに、暗殺するような感じで倒したい。
「静かに、何事も無く…。眠ったまま倒してしまえれば…。む……、『
次の瞬間ドラゴンは目をカッと見開き崩れ落ちた。力なく投げ出された肢体は二度と動く気配は無い。僕はそのまま奥に進み扉を確認する。『
その中には…。
□
海底の洞窟を抜けた。海峡の南側に着いた時、空はもうすぐ夕方になるかというくらいの頃合いだった。
「また太陽の下に戻れるとは…、思いませんでしたわ…」
僕には同行者が出来た。名はレイシアさん、僕より少し年上か…金髪碧眼の美しい女性だった。細かい話は後にしてひとまず洞窟を出る事にした。
「良かったです。お一人では心細かったでしょう」
さて、ここからならダールリムルの町が近いはずだ。幸い道もある、『
そんな事を考えていると、ガシャンガシャンと音を立てて何者かがやってきた。
「貴様が勇者であるか?」
目の前には分厚い甲冑を身に付けた集団がやってきた。その数は二十人くらい、先頭にいるリーダーらしき存在が問いかけてきた。
「そうだ…、と言ったら?」
「
その言葉を合図代わりに一斉に戦斧を構え、僕に迫ってきた。
「むうっ!『
出し惜しみはしない、そして接近戦になったら僕には対抗する手立てが無い。だから一気に全滅を狙う。次々に崩れ落ちる悪魔騎士達、しかし一体だけが倒れずに自らに回復魔法をかけている。
「この一撃で部下達を全て…、これほどとは…。身を守る事に専念しなければ一撃でやられていたか…」
生き残っていたのはリーダー格の悪魔騎士だった。
「まだ…やるんですか?」
「
「貴方は…。いや部下の人達も騎士なんですね。魔物らしくないというか…、正々堂々と言うか…」
「なに?」
「だってそうでしょう?これだけの人数がいたんだ、回り込むなりレイシアさんを人質に取ろうとするなり手段はあった筈です。だけど貴方は…、貴方達はそれをしなかった」
「ふ、ふふ…。良い
身に感じる圧がグンと増した。
「…ッ!!ぼ、僕は出来れば貴方とは戦いたくないんですが…」
「感情はどうあれ敵同士である。将として騎士として…、これより言葉は不要!!…参る!」
そう言うと斧と盾を構えた。
「分かりました。全てをかけてお相手いたしましょう」
僕達は向かい合う。その距離二十メートルくらい。
ドンッ!
悪魔騎士が地を蹴って迫る。それは駆け寄ってくるようなものではない。一足飛びに飛びかかってくるような、想定外だっ!
「は、速いっ!!」
悪魔騎士は目の前に迫っていた。
□
「くっ!『
ブンッ!!
悪魔騎士の戦斧が空を切る。重い鎧が着られない僕が身に付けているのは旅用の丈夫な服だ。しかし所詮は布製、斧の一撃を受けて無事な訳はない。それを素早く動いてかわす事で最悪の事態をさけた。
「馬鹿な、かわすとは!身をかわす時間は無かったはずだ!その身のこなし…足音すら立てぬとは」
振り下ろされた戦斧を左横に動いてかわした僕に横薙ぎに追撃が迫る。これは後ろに下がってかわした。
「危なかった…。そうか、相手の武器を持っている腕の方にかわしたらダメだ。武器から遠くなるように…」
僕は悪魔騎士の盾を持つ左手側に回り込む。
「我が戦法は
そう言うと悪魔騎士は盾を持つ左手を突き出す。そこに火の玉が生まれた。『
「馬鹿な、魔法までッ!?なんと言う速さだっ!」
「
「くっ、ならば…」
そう言うと悪魔騎士は戦斧での牽制を交えながら魔法を唱え始める。あれは『
「静かなる事、林の如く…。『
「眠るが良い、『
しかし魔法は封じ込められている。
「ま、魔法が…」
「将として、武人として戦う…貴方の言葉、僕は嬉しかったですよ。だから僕も!魔法の勇者として、そして城を守った者として!!魔法と僕の故郷の兵法の極意を用いて戦います!」
魔法を封じられた悪魔騎士は果敢に戦斧で攻め立ててくるのをかわし、大きな空振りで悪魔騎士の体勢が崩れたところに魔法を唱える。
「いけ、『
体勢を立て直す時間も無く悪魔騎士は至近距離で放った魔法をまともにくらった。業火がその体を焼き尽くす。そしてその炎がおさまった時、ぐらり…悪魔騎士の体が揺らいだ。
「侵略する事、火の如く…。終わった…」
がしっ、前のめりに倒れるだけであったはずの悪魔騎士の左手が僕の肩を掴んでいた。そして右手は斧を振り上げた。まずいッ、掴まれたままじゃかわせないッ!
「わ、我…一人では…逝かぬ…」
悪魔騎士の斧が僕目がけて振り下ろされた。
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