#20 敗北感と新たな旅。



「あ、あの…いかずちは…なんだ…、貴様は…いったい…?」


 魔物達を全滅させた僕達、城の近くに潜んでいる敵がいないか捜索が行われた。もし潜んでいるものがいたならば遅疑なく殺す、いわゆ敗残兵狩りのようなものだ。


 その中で見つけたのが自らをマツナガンと名乗っていた魔道士であった。もう虫の息で余命いくばくも無い…そんな状態。ゼイゼイと荒い息をつきながら問いかけでくる。


「あれは『聖雷ギザデイン』…。いにしえの勇者だけが使えたという魔法だよ。かつてこの国から光を奪い闇に染めたと言う魔王でさえまともに数発食らえば命取りになる魔法だ…」


「そ、そうか…『遺失魔法ロスト』か…。…だ、だが、どうして貴様が…」


「僕も勇者だからさ…。魔法の勇者…らしい」


「ゆ、勇者…。ま、魔法の…。か、叶わぬはずだ。ひ、人の身の…魔道士の我には…」


 皮肉な笑みをマツナガンは浮かべた。


「ひ、一つ…教えてくれ。なぜ、雷の…『豪雷ぺラギマ』が一撃で…。何百もの魔物をほふるのだ?あれは一体の敵に…雷を…。落とす魔法だ…。ふ、二人同時にかけたとしても数匹…、巻き込むのがせいぜい…。な、なぜ…?」


「海水のせいだよ…。電気は…、いや雷撃というのは海水を伝わるのさ。だから周りを巻き込んで…」


「こ、この海水が…」


 マツナガンは海水を引き入れ泥沼となった城門前の平野を見回す。


「くっ、我はこの城門を抜く為に背水の陣を敷く事に知略の全てを使ったが…。それが既に貴様の誘引ゆういんの策であったとは…。ふ、ふはははっ!」


 そう言って笑った後、マツナガンはすうっと左手を持ち上げた。その手には僕が作った爆発石、もしかして不発弾みたいなものがあったのか?

 だけど、マツナガンは致命傷を負い…み、身動きさえ最早取れない程だったのに…。


「も、もしかして人知れず回復魔法を!?」


 な、なんて事だ!全く気付かなかった。この距離で投げられたら!


「みんな離れてッ!」


 僕も離れながら攻撃魔法を唱えようとする。だが、


「ふ、ふふふ。負けだ、我の…負けだ。ね、願わくば貴様にはゆっくり教えをいたかっだ…叶わぬ事だがな…。だが、このマツナガン…、捕虜になるのも敵に殺されるも嫌いな性分でなあっ!


 そう言うとマツナガンは爆発石を自分の胸元あたりに叩き付けた。たちまち泥を跳ね上げながら爆爆発が起こる。そしてその場所には何一つ残す事なくマツナガンは姿を消した。


「マツナガン…」


 僕はマツナガンがいた辺りを見つめ呟いていた。


「少なくとも僕は…あなたに知恵比べで勝てたなんて…負けたとしか思えないよ…」


 こんなルール無視みたいな能力でもなきゃとても…生き残れたりはしなかったよ…。



 僕は防衛戦いくさの後は負傷した人々の治療に回った。と言ってもそこまで多くはない。


 せいぜい城壁の上まで飛行出来る蝙蝠悪魔こうもりあくまによる急襲を受けて負傷した人と、いくさの途中で物を足の上に落としたとか転んだとか事故による負傷をしたとかそのくらいであった。何より死者が一人も出なかった事、これが何より良かった。


 そして戦後処理がひと段落したところで、僕は王様と謁見をした。謁見の間にはサマルムーンさんをはじめ共に戦い見知った顔があり、少し心強い。今回の防衛戦についてひとしきり賞賛を受けた後、今後の事を尋ねられた。


 本音を言えばどうしたいか、その返答は決まっていた。しかし、僕はとりあえず当たり障りない回答をする。


「ブルーノさんの応援に行きたいと思います」


「おお…。剣の勇者ブルーノを…」


「はい。聞くところによると今回の防衛戦で国中の魔物が押し寄せたのではないかと言われています。ならば当面この王城の守りは心配いらないかと思いまして…」


「ふむ…」


「となると魔王を討ちに向かったブルーノさんを追い、共に戦おうかと考えまして…」


「なるほど。今度はこちらが攻める番と言う事じゃな」


「はい」


「あい分かった。では勇者シュウよ、これを授ける」


 そう言って王様は僕に家臣を経由して一つの鍵を手渡した。


「これは…」


「その鍵を使って外に続く扉を開いた時、そなたの旅が始まるであろう」


 あれ、どっかで見た事あるぞ。このやりとり。後で聞いた話だが、この国では出征する際はこうして旅立っていく風習ならわしがあるらしい。


 そして、僕のブルーノさんの足どりを追う旅が始まった。





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