#16 開戦告げる大爆発、篭城は良い滑り出し。


 どんどん魔法力が吸われていくのが分かる。僕の手から発石車にセットされた大きな石に注がれていく魔法力…。初めて使う魔法という事もありまだ効率良くその力を行使出来ていないのだろう。


 だが、この魔法自体のイメージは出来ているし、魔法力が流れ出ている事から失敗している訳ではない。効率が悪いだけだ。


 本来は呪文を詠唱し起こるべき現象を具現化すれば良いだけの話だ。だが僕の今している事はその起こる現象をただ具現化させるのではなく、さらに物の中に宿らせようというもの。


 要するに『一手間余計にかかる』という事だ。


さ〜ん………、フ、フハハッ!何の返答も無しかぁっ!さては城壁の内側で震えておるのではあるまいなぁ?」


 外から聞こえてくるカウントダウンをしているであろう魔法使い風の魔物の声が響く。だがその声はあからさまに変わってきている。


 最初の降伏勧告をして、十から数え始めた時にはその声には緊張感があった。だが今はこちらが抗戦か降伏かを決める事さえ出来ず、城内でただ萎縮ちぢこまっているとでも考えあなどっているのだろう。あきらかに調子に乗っている。


「出来たッ!『大規模爆発ナズンオイ』っ!!」


 大きな石は強い黄色の光が宿った。あの『小規模爆発オイ』よりはるかに上位の魔法だ。これもいわゆる『遺失魔法ロストマジック』、その中でも最高レベルの攻撃魔法だ。


「サントウヘイさんッ!狙いはあの岩石巨兵ロックゴーレム!届きますか?」


「この人数がいれば大丈夫でアリマス!」

「よーし、まずは少し向きを調整しろ!」


 そう言って兵士さん達が発石車の向きを微調整する。外からのカウントダウンの残りカウントは2になっていた。


「集まった者達は台に登れ!」

「登った者は上から下がっている縄を掴め!」

「合図と共に台から一斉に飛び降りる、良いな!」


 発石車に乗った兵士さん達が中心になって声を掛け合う。


「皆さん、頼みます。狙いはあの巨大な岩石巨兵ゴーレムです!あの魔物をのぞく事が出来れば、城門や城壁が一撃で破壊される事はまずありません!アイツをまず叩いて下さい!」


「「「おおっ!!」」」


 返事が返ってくる。


い〜ち!!!どうした、どうした!?恐れおののいているだけかぁ〜?トームラダには男が一人もおらんのかぁ〜?」


 そんなに見たいのかい?男ってやつを…。


 良いよ、見せてあげる。待たせたね、その為の時間はアンタが十数えてる事で貰えたよ。


 さあ、そっちこそ戦慄おののくが良い!!


「皆さん、今ですッ!」


「よしっ!やれーッ!」

「「「うおおおっ!」」」


 発石車の中ほどの高さにある木製の床台から男達が一斉に飛び降りる。グンっ、五メートル以上あるアームが時計の『4』の位置から『12』の位置に勢いよく跳ね上がり、石が発射された。


 ぶぉんっ!!


 大きな風鳴りの音を立て、爆発の魔法を秘めた石が飛んでいく。着弾した時になるであろう爆発音、それがこのいくさの始まりを告げる開戦の合図だ。



 トームラダ北の平野に布陣した魔王軍。

 その指揮を執る魔道士マツナガンは戦わずして勝敗は決したと確信していた。


い〜ち!!!どうした、どうした!?恐れおののいているだけかぁ〜?トームラダには男が一人もおらんのかぁ〜?」


 降伏勧告に対し城にこもる人間共はうんともすんとも言ってこない。普通ならあらがおうとするならカラ元気だとしても気勢の一つも上げるだろうし、降伏するならばこちらの心証を良くする為に少しでも早く意思表示をするだろう。実際に城門を開けるのに時間はかかるにしても、返答だけは出来るものだ。


「だが…」


 マツナガンは独り言を呟く。


「たとえ抗戦でも降伏でも…。人間共の運命は変わらぬ、皆殺しだ。運の良い者だけは未来永劫続く奴隷か…、いや苦しみが続く分だけ不幸か…」


 くっくっく、唇から笑いがもれる。


 その時だった。ぶぉんっとかすかな音が聞こえ、大きな石が飛んでくる。それが返事か人間め…マツナガンは頭を瞬時に切り替えた。


岩石巨兵ロックゴーレムッ!!あれを打ち砕けッ!」


 反撃のつもりか、篭城側が石を飛ばしてきた。だが、あんなものは悪あがきも良いところだ。こちらには岩石巨兵ロックゴーレムがいる、そこにむけて石を発射ばしてくるなど…ヤツが殴りつければ粉々ではないか。随分と愚かだ、人間というやつは…。そう、人間というやつは…。


 岩石巨兵ロックゴーレムが迎撃しようと拳を構えたとき、マツナガンは何気なく飛んでくる石を見ていた。何の変哲へんてつもない石、だが何やら黄色い光を帯びていた。


 見覚えがある、あれは熊獣人のリカルド達が落とし穴にはまり城壁から次々と投げ込まれた物があんな光を帯びていた。あれも…まさかッ!?


「ゴーレム、手を出さず身を守れ!全員、伏せろおおおぉっ!!」


 言うやいなや、マツナガンは地面に身を伏せた。しかし、周囲の魔物達は反応が遅れ伏せる事は出来なかった。そして岩石巨兵ロックゴーレムは既に迎撃の為にその拳を飛んでくる石に向かって突き出していた。


 ズッ………ドオオオンゥゥゥッ………!!!!


 岩石巨兵の拳と『大規模爆発ナズンオイ』の魔法が宿った大きな石が衝突しそこで大爆発が起こった。


「う…、うぐぐ…」


 瓦礫がれきに埋もれながらもマツナガンはなんとか無事だった。しかし、目にしたものは信じられないものであった。


「ロ、岩石巨兵ロックゴーレムが…」


 膝から下だけを残し岩石巨兵は跡形もなくなっていた。悪夢だった、しかしこれが夢ではない事を地面に転がっている岩石のかけらが物語っている。


 さらに舞い上がった土煙がおさまってくると、より被害が甚大である事を痛感する事になる。地面にはおびただしい数の魔物の死体があった。


 いや、死体と呼べるものはまだ良い方だった。元が何の魔物だったのかも分からない肉片としか言い様のない物が多い。そんな物の中で自分が地面に伏せていたのか…、マツナガンはまさに戦慄おののいていた。


 リカルド達…切り込み隊とも言える熊獣人達を本格的な城攻めをする前に失った。そして攻城の要とも言える岩石巨兵をたった今失った。いわば機動戦と拠点攻撃の要を失った、残るは一部の例外を除けば物量戦しか選択肢が無いか…。マツナガンがそんな事を考えていた時だった。


 今度はマツナガンの後方から爆発音が響いた。振り返るまでもない、第二射が来たのだろう。このままここで動かなければ狙い撃ちの的になるだけだ。


「お、お、押し出せーっ!!」


 マツナガンは総攻撃の指示を出した。



「や、や、やったでアリマス!あの岩石巨兵が!」


 大規模爆発ナズンオイの魔法をかけた大きな石により敵陣の岩石巨兵とその周辺の半径50メートルくらいの魔物が蹴散らされていた。

 サントウヘイさんがその威力に歓喜の声を上げる、周りの人々も喜びの声が上がる。


「サントウヘイさん、次いきますよ!」


 そう言って今度は先程の石より二回りくらい小さい石を兵士さん達に発石車のアームにセットしてもらい、再び台の上に登ってもらった。今度は威力よりすぐに撃てるように魔法のレベルを落とした。


「ふうう…爆発オイ系の魔法のコツは掴めた!『中規模爆発ラオイ』!!」


僕の魔法が石に染み込んでいくような感覚。相手が初撃のダメージから立ち直っていない今が好機!たたみかける。だから魔法のレベルを落としすぐに次弾を撃てる事を最優先にした。


「へへっ!今度は軽い分、より遠くまで飛ぶぜ!」

「うおおおっ!なら、今度は敵陣の奥深くじゃあ!」

「いくぞ、いっせーの…」

「せっ!っでアリマス!」


 二射目も着弾、景気良く魔物を吹き飛ばした。よし、三つ目だ!


「敵陣、動いた!来るぞ!」


 動き始めたみたいだ。だが、動揺しているのかその動きは想像していたものよりも遅い。だが近付かれては石の射程距離より内側、ふところに飛び込まれ発石車の出番が終わる。もう少し役立ってもらいたい。少しでも抗戦前に敵の頭数を減らしておきたい。


「サントウヘイさんっ!」

「分かってるでアリマスっ!みんな、北東に発石車を向けるでアリマス!」


 手早く数人がかりで石をアームにセットした後、発石車の台座を中華料理の回転卓のように台座の向きを変えていく。僕は発石車のアームにシーソー台に乗るようにまたがり魔法の準備をする。向きを変えるまでしばらく時間がかかりそうだ、ならば…


「大きな魔法でいく!ふうううう…ん、『大規模爆発ナズンオイ』!!」


 僕が魔法をかけ終わるのと同時に発石車の向きが変え終わった。留め具をかけ、向きを固定させた!


 再び石が発射された。トームラダは城壁で四角く囲われている。その北東の角に向かう魔物の群れに石が着弾し魔物はまたも数を減らす。岩石巨兵ロックゴーレムのような大型の魔物の姿は見えない。巻き込まれた中小型の魔物はひとたまりもないだろう。


 だが、もう魔物は射程より内側に入り込もうとしていた。発石車はもう使えない、いよいよ人と魔物が直接やり合うような決戦が始まろうとしていた。



 

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