#12 篭城 〜緒戦〜
魔王軍が攻めて来る。
神殿で
ついに来るか…。だが剣の勇者であるブルーノさんはどうしたのだろう。お城にやってくる伝令の話ではすでに二つの町などを経由し、周辺にいた脅威となる魔物を退治したと聞いていたけど…。
いや、魔物側は軍団だ。別働隊かも知れない。それに今はトームラダを守る事、これを最優先に考えよう。
『
「勇者サマ〜!石を集めて来たぜえ〜!」
いつぞや西地区での治療を終えた後、このあたりで宴会をしようと発案した男の人だ。そして僕は大きい石には『
「じゃあこれを城壁の上に!」
「分かったでアリマス!」
出来立ての防衛武器を兵士であるサントウヘイさん達が各所に持っていく。
「次の石も来てるぜ!」
「うわー、早いですね」
「へっへっへっ。みんなが勇者サマに期待してるのさ。それに石を集めるのは誰でも出来る。爺さんでも子供でもな。みんな必死だぜ、二度とあんな被害に遭いたくはねえからなあ」
僕の脳裏にこの国に来た頃の怪我人があふれ、町を守る城壁が崩れかけていた頃の事を思い出す。
「だけど今度はそうはいかねえ!なんたって勇者サマがいて、いろんな道具もあるんだ。俺達だって戦うぜ!なあ?」
近くにいた人達もそうだとばかりに頷く。
「分かりました。ではまだまだ道具を作ります。皆さん、よろしくお願いします」
そう言って僕は石に魔法をかけ始めた。
□
それから二日後…。
城の北の方から魔物の軍勢がやってくるという、北の城壁に急ぐ。
トームラダは四方に平野が広がるとは言え、南はすぐに海。東もしばらく行けば海、西は遮る物が無い平野。唯一、北はしばらく行くと森が広がるが…既にそこから魔物が姿を見せ始めている。
なんだろう…、守るのにこれほど適していない地形は…。まさに『攻めるに
「無理もありません…」
隣にいるサマルムーンさんが声をかけてきた。
「この地は南の対岸にあるこの国でもっとも高い場所にある精霊の祭壇…、そこから国全体に降り注ぐ加護の力がこの国を守っていたのです」
なるほど…、その祭壇を魔王が奪った事で加護が無くなってしまった…。僕は南に向かって振り返りはるか遠くを見つめる。そこには対岸と呼ぶにはあまりに高低差がある高地を見た。
嫌な感じがする。こちらを見下ろされているような…そんな気分だった。
「おおっ!敵が動いたぞ!」
誰かが上げた警告の声に僕は北の方角に向き直る。
「き、来たッ!は、速いッ!熊獣人の群れだ!」
見れば遠くに熊と言うにはスマートな二足歩行の魔物がいた。靴を履き服も着ている。だがその魔物はアスリートと言ってもさしつかえがないほどに俊敏、かつ力強く一直線にトームラダの城門に向かって来ている。
「狙いは城門かッ!」
「奴らは一匹が兵士数十人に匹敵する
「大丈夫ですッ!皆さん持ち場について!爆発石を準備ッ!僕が敵の足を止める!そしたら一斉に攻撃をッ!」
来る、来る、来るッ、来たッ!
「いけっ!『
熊獣人達が駆け込んで来る城門の前、僕は50メートルプールくらいの面積で深さは10メートルほどの穴を地面にあげた。突然の事に熊獣人達は次々に穴に落ちた。
「今ですッ!!」
僕は某有名軍師のように合図を出す。
「おおっ!あの穴に目がけてッ!」
「敵の身動きが取れぬ今が好機ッ!」
「皆の者、
「目に物見せてくれる!」
「行くでアリマス!」
次々と上がる爆発音。あれ、ちょっと《過剰殺傷》オーバーキルじゃない?そう思っていると、爆発石によって巻き上げられていた土煙がようやく晴れてきた。
「うわあ…」
見えてきたのはスプラッタとしか言い様のない爆散した熊獣人の死体…。某野菜の王子なら『汚ねえ花火だ』と言うような場面だろうか。
と、とりあえずあんまり精神的に良いモンじゃない。埋めちゃおう。
「それにしても…、魔王軍団の切り込み役とも言える熊獣人どもをこうも簡単に…」
「しかもこちらは犠牲者は…かすり傷一つ負ってはおらぬ!」
「か、勝てる、勝てるぞッ、この
城壁の上の兵士達が歓声を上げている。どうやら前哨戦とも言える小競り合いを完勝した事で士気が上がっている。
魔王軍の尖兵を退けた、今回の勝利はそれ以上に意味のある戦いとなったようた。
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