#11 魔法の品物作ります。


 西地区での治療を終え、次の日からも他の地区を回り怪我人を治療していく日々を過ごした。怪我で寝込んでいた人々が働けるようになれば活気も生まれ、復興も進んでいく。


 仮にいくら強い勇者がいたとしても一人で出来る事は限られている。仮に戦いで無敵でもそれだけでは生きていけない。例えば食料を生産してくれる人がいなければ飢え死にしてしまうし、武器や防具を作ったり修理してくれる人がいなければ素手での戦いになってしまう。


 人は確かに一人一人の力は弱い。しかし色んな事を分業し、その力を結集する事が出来る。その集団の力は小さなものではない。それゆえに多大な犠牲はあったものの僕と青野さんが転移してくる前の魔王軍の襲撃を撃退出来たのだろう。


「勇者様、こちらの方ですが…」


 治療に同行してくれている巫女さんから声がかかる。


「これは…」


 その怪我人は傷自体は大きなものではなかったが、体を黒いもやのようなものが覆っている。呪いだ、傷を負わされた時に同時に呪いを受けたようだ。

 厄介な呪いだと思った。呪いにはいくつか種類があるがこれは生命力そのものにかける呪い、手っ取り早く言えば怪我や傷が治らない呪いだ。


「マチルダさん、聖灰ビブーティを!僕は魔法をかけます」


 聖灰を入れた木箱を持っていた巫女さんに声をかけた。彼女は指先に一つまみ聖灰を怪我人に振りかける。この聖灰、僕が神殿にいる時に集めた灰をかき回しながら『解呪ナクシャ』の魔法をかけて作ったものだ。

 よし、呪いが消えていく。効果はバツグンだ!ここからは僕の出番。


「ふううう、『重傷治癒ぺホミイ』!」


「ああっ、どうやってもふさがらなかった傷がっ!」


 治療を受けた人の家族の方が声を上げる。


「さあ、これでもう一安心ですよ。でも、無理は禁物。傷は治りましたが体力は失われています、ゆっくり休ませてあげて下さい」


「勇者様!ありがとうございます、ありがとうございますっ!傷だけでなく呪いまで…」

「そうですよっ、あの強欲なマヨーケなんかじゃ大金をむしり取られているところだよ?」

「それにしても…『聖灰ビブーティ』って文字通り祝福を受けた灰なんだろう?勇者様…、そんな貴重な物を…」


「い、いやいや!気にしないで下さい。まずは怪我が治った事を喜びましょう」


 僕はなんとなく体がむずがゆくなるような感覚を覚え話を打ち切る方向に持っていく。


 というのもこの『聖灰ビブーティ』、実は神殿の炊事場にあったかまどの中に残っていた灰なのだ。薪に使われた木というのは太陽や土に水、自然のあらゆるものの恩恵おんけいを受けた物だ。

 神殿では精霊を信仰している、その場所で水や土などの精霊の加護を受け育った木で出来た薪の灰…すでに祝福を受けた物ではないかと思って試したところ上手くいったのだ。


 確かに祝福を受けた素材の灰、しかし貴重…というか高価みたいな印象になっているのはなんだか色々とムズムズする。極論『聖灰ビブーティ』でも『解呪ナクシャ』の魔法でもお金は大して必要ないのだ。それをあのマヨーケが高額な請求をしていたから高いイメージが根付いてしまったのだ。


 僕としてはまずこの事を変えていきたいと思った。それが神殿での治療をする理由でもあった。



 マヨーケか…。そう言えば西地区から帰る時…。


「ま、待てっ!これからワシはどうなるのだ?」


「さあ?ただ、一つだけこれだけは言えますね」


 僕はマヨーケの方に振り向く。


「あなたが日々のかてとなるパンのように人々にとってなくてはならない存在なら、あるいは神殿で呪いを解くようになってもあなたとの普段からの付き合いを続けていきたいと思う人達があなたのところに来るんじゃないですか?随分とご立派なんでしょ、元王城破邪師って肩書きは?だったら周りがほっとかないんじゃないの」


「周りが…」


「そう、選ばれし上級国民なんでしょ?有能なんでしょ?それなら家で待ってるだけで人は次々と来るでしょ?」


「そ、そうじゃ…。ワシは元王城破邪師、有能なんじゃ…。よし、帰るぞ!」


 家人を引き連れマヨーケは立ち去っていく。


「うん。人は来るよ。アンタが必要とされ、愛されていればね…」


 それ以来、僕はマヨーケを見ていない。仮に会ったとしても何も話す事は無いし…、あれじゃ町の人に愛されているようには見えないし…。

 それより昼は治療、夜は軟膏をはじめとして役立つ道具をどんどん作っていこう。製造と試行錯誤を繰り返す毎日。


 その中には新たな成果として現れたものもあった。薬草に『解毒リーキア』や『麻痺解除リクキア』をかけながら栽培してみたら突然変異を起こし、毒を打ち消したり麻痺を治したりする薬効を持つ物に変わった。


 神殿や教会で清められた水に魔法力を込めてみたら、飲むと少しだけ魔法力を回復してくれる物になった。


……………。


………。


…。


 二十日ほどが過ぎた。町からは怪我人もなくなり、僕はトームラダの城下町を回ってみた。その頃には足も治っていて気になる場所へも行ってみた。町ごとぐるりと囲んでいる城壁の上である。


「うーん…」


「どうしたでアリマスか、勇者殿?」


「魔物が攻めてきた時、何か良い撃退法がないかと思いましてね。実際、攻めてきた時はどうするんですか?」


「離れている間は弓矢、そして投石でアリマス!近づかれたらさらに槍や竿状武器ポールウェポンで攻撃でアリマス!!投石なら訓練を受けていない町の衆でもでき、威力はないが手数にはなるでアリマス!!」


「投石か…。うーん…」


 試しに小さな石を一つ投げてみる。石はそのまま飛んでいき、地面に当たったようだ。確かにこれでは威力に期待は出来ないな…。


「待てよ…?」


「どうしたでアリマスか?勇者殿?」


「はい、ちょっと思いついて…。『攻撃力倍加キルトバイ』!」


 僕は少し大ぶりの石に魔法をかけた。そしてその石を力いっぱい投げてみた。


 ボコォッ!!


大きな音と共に、石が着弾した地点の地面が深くえぐれている。


「す、凄い。勇者殿、これは…、これは何でアリマスか?」


「ええ、攻撃の威力が上がる魔法を石にかけて投げて見ました」


「なんと…」


「ん?じゃあ、アレもいけるかな?」


 僕はもう一つ思いついて小ぶりな石を手に取って魔法をかける。


「初めてかける魔法はやっぱり緊張しますねえ。『小規模爆発オイ』!!」


 石に黄色い光が宿った。多分、成功かな?僕はその石を兵士の人に渡す。


「こ、これはなんでアリマスか?勇者殿」


「これはたった今作り出した新兵器です」


「し、新兵器…(ゴクリ)」


「同じく投げて使う物なんですが、先程のものより威力があると思います。近くに落ちると危ないので遠くに投げる必要が有りますが、僕は非力なので代わりに遠くまで投げてもらって良いですか?」


「分かったでアリマス!!不肖このサントウヘイ、勇者殿のご期待に見事にこたえてみせるでアリマス!!うおりゃあああ〜!」


 サントウヘイさんは期待通り遠くに投げた。放物線を描き石は地面に着弾…そして。


 どかああああんっ!


「うわあああっ!」

「ぎゃーでアリマス!!」


 カッと黄色く光ったと思ったら想像以上の爆発が起きた。ちょっと、小さい爆発じゃなかったのこの魔法は?爆風がおさまりサントウヘイさんと城壁から顔だけ出して石を投げた方を見てみると…。


 半径5メートルぐらいの地面がえぐれていた。


「こ、これがあれば…あのパワハラ上官を…」

「ダメですからね…。そういう事に使うのは…」


 いずれにせよ防衛に使えそうなものが出来た。そして量産を開始した。


 そして数日後、急報が届いた。


「魔王軍に動きあり!トームラダに攻め寄せてくる模様!」

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