#9 新たな『遺失魔法』で治療効率爆上がり。


「シュウ様、あの方の毒は…」


「大丈夫だと思いますよ。体に回るのは早いですが、どうやら毒性としてはあまり強くはないようです。ですからすぐにも命取り…なんて事にはならないと思いますよ。まあ、身体全体に回ったら危ないかも知れませんが…」


 マヨーケの家を出て隣の家に向かう時にサマルムーンさんが尋ねてきたので僕はそんな風に返答こたえた。

 まあ強い毒ではない。でもそうだとしても苦しくない訳ではない。まあ、そのあたりは良い薬になるだろう。


 そして僕は西地区の怪我人宅を回っていく。そして『重傷治癒ぺホミイ』の魔法をかけていく。色々な人がいて、様々な種類の怪我がある。その一つ一つに治療を施していく中で僕の魔法の習熟度合いも増していく。すると同じ『重傷治癒』の魔法を行使したとしてもその効果が増していく。同じ魔法でも覚えたての頃より今の方が効き目があるのが自分でも分かる。


「勇者様、ありがとう!」


 怪我が治った人やその家族の皆さんからそんな声を聞くと来て良かったと思う。そしてとある養護院に足を運んだ時の事だ。本来ここには身寄りの無い小さな子供達が身を寄せているそうなのだが、少なくない数のお年寄りもいた。

 聞けば以前、町に魔物の襲来があった時に崩れた建物の石組みが体に当たったりして怪我を負ったそうだ。しかも身寄りがいなかったりしたので養護院にいるのだという。


「子供達を養育するだけでも大変そうなのに…。お年寄りもいたのでは日々の食べる物も大変だろうな…」


 僕は思わずそう呟いた。しかし、まずは治療が最優先だ。怪我が無くなればきっと何かが出来る。怪我が治れば働く事も出来る。事実、治療が終わった地区では復興もし始めた。極端な話、一日早く怪我が治れば一日早く町は復興する…そんな風に考えながら僕は回復魔法をどんどん使っていく。


 養護院では確かに何人もの怪我人がいた。しかしこうやって一箇所に集まっていてもらえば一軒一軒訪問して治療するよりはるかに効率が良い。一人治療したらすぐ隣に次の怪我人がいる、これなら次々に怪我人を治療する事が可能だ。


「だけど…」


 確かに『重傷治癒』は高い治療効果のある回復魔法だ。しかしあくまでもその効果が及ぶのは一人のみ。もし今すぐ治療をしないと命に関わる怪我を負った人が二人以上現れたなら一人しか助けられない。そんな時はどうしたら良いんだ…。


「あっ…、そう言えば…」


 確かあの国民的RPGのシリーズでは…一人ではなく味方全員を回復させる魔法があったはずだ。もしそれが僕にもら使えるのなら…。


 よし…、やってみよう。


「ふううぅぅぅ、『集団重傷治癒ぺホラマー』!!」


 『重傷治癒』の魔法よりは弱々しいが、より広範囲を照らすような大きな薄緑色の光が僕の手から生まれた。その光は僕を中心に半径5メートルくらいを優しく照らした。


 するとどうだろう、その範囲内にいた五人程のお年寄り達の怪我が治っていく。単体にかける『重傷治癒』より回復量は少ないが確かに効果は現れている。そして幸いな事にお年寄り達の怪我は軽傷よりは重かったが、重傷とまでは言えないものだったのでこの『集団重傷治癒』くらいの効果で丁度良かったのかも知れない。


「け、怪我が治ってる…」

「起き上がれる…、起き上がれるよ…」


 そう言ってお年寄り達が回復の喜びを口にする。良かった…、魔法も上手くいったし怪我も治っているみたいだ。


「上手くいった…、上手くいった!よし、この『集団重傷治癒』でどんどん治療していくぞ!」


 そして僕は怪我をしている人に声をかけ、動ける人にはなるべく僕のそばに寄ってもらって覚えたての魔法を連発していく。その結果、一度に十人近くの怪我人が一気に回復していく。


 それを全部で三回すると、全員の治療が終わった。うん、ちょうど昼時だ。食事にしよう。


「あっ、治療が終わった皆さん。皆さんお腹が空いてませんか?実は魔法というのは傷をふさぐ事はできますが、同時に体の栄養を使います。だからお腹が空いてしまうんです」


 僕がそう言うとお年寄り達は顔を見合わせ、


「そう言えばお腹が減ってきたねえ」

「シスターさん、メシはまだかい?」

「もう、お爺さん!朝は食べたでしょ」


 そんなお年寄りや養護院の人達のやりとりが聞こえてくる。


「ちょうど昼時です。炊き出しをしますから昼食にしましょう。パンと汁物スープを用意しますんで」


 そう言って僕達は材料と煮炊きが出来る大鍋の準備を始めたのだった。



「それじゃ帰りますかねぇ」


 養護院を後にして残った何軒かの怪我人を治療すると西地区ですべき治療が完了した。夕暮れにはまだときがあるが、たまには早く神殿に戻るのも良いだろう。なにしろ毎日働き詰めなのだから。


 サマルムーンさんをはじめとして巫女さん達にもたまにはゆっくり休養してもらいたい。満足に食事の時間が確保れないくらい忙しい、だから僕達にとって養護院での会話の花が咲くような食事と言うのは本当にありがたいものだった。


「ああ、貸してごらんよ!アタシ達はかまどの前に立って五十年以上!アンタらが生まれる前から包丁握って煮炊きしてんだから」


 そう言うと怪我を治療したばかりのお婆さん達が巫女さん達に代わって野菜を切り始める。さすがは大ベテラン、手際が良い。


「ワシらは若いピチピチの巫女さん達が作ったメシが食いたいんじゃがのう…」


 助平心スケベごころ丸出しで不満をもらすお爺さん達だが、そこはお婆さん達の方が強い。


贅沢ぜいたく言うんじゃないよっ!まったく!」

助平爺スケベじじいにはそのへんの草でも食わせておけ!」


 お婆さん達の迫力と口数に負けお爺さん達はすっかりおとなしくなった。僕は宿屋のおかみさんに教わった生活魔法で大鍋の水を一瞬で沸騰させた。


「おやおや、勇者様は生活魔法もお得意かい?」

「それもこんな一瞬で沸かすなんて…」

「ウチの息子に欲しいねえ」

「何言ってんだい!息子って言うより孫みたいな年齢トシじゃないのさ」


 女性達のパワーとエネルギーというのはいつどこでも強い、そんな事を思った昼時の出来事だった。

 そんな皆さんと昼食を食べ、その後もテキパキ治療をして、それがとても手際良く出来たという訳だ。


 早めに神殿に帰る事はサマルムーンさん以外に僕にもメリットがある。具体的には先ほど覚えた『集団重傷治癒ぺホラマー』の練習をしておきたい。他にも様々な魔法を覚えておけば色々な場面で応用できるだろう。決して無駄にはならない…、と思う。


 神殿に帰ろうと歩いていると養護院の前を通りかかった。そこで寝泊りしていた怪我をしていたお年寄り達も後片付けを終え、どうやらそれぞれの家などに戻ろうとするところだった。彼らも僕らに気付き手を振ってくれている。僕達も手を振り返した。


「ま、待て!う、うぐうっ、ワシの治療がまだ終わってないだろうが!」


 養護院の前に差し掛かった僕達の前に現れたのは西地区で一番最初に治療した元王城破邪師マヨーケだった。


「歩けるじゃないか…」


「あん?何じゃと…」


「歩けるじゃないかと言ったんだよ。マヨーケ」



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