#6 父ちゃんを助けて!!


 翌日…。


 王城の外れ、いわゆる外郭にあたる場所にある神殿には出入り口が二つある。一つは城郭内部に通じる出入り口、つまりここから出入りする人は王城側からの人である。王族をはじめとして城勤めの人たちがこちらからやってくる。


 もう一つの出入り口は城郭外側に面するもの。つまり一般的にお城との関わりが無い人々、市井しせいの人々である。怪我をした兵士達の治療ふがあらかた終わったので、今日からは城勤めじゃないいわゆる平民で怪我をしている人を治療する事にしたのだ。


 と言うのも町中の人々の中にもトームラダが魔物の軍団に攻め寄せられた時に怪我をした人がたくさん出たと聞いたからだ。回復の魔法を使い、怪我をした人を治療出来れば人の役に立つし魔法の練習にもなる。魔法力が枯渇するまでとにかく使い、祠のお爺さんに回復してもらえばいわゆるパワーアップにもつながる。


 ちなみにお爺さんに魔法力を回復してもらう事でパワーアップにつながれけど、魔法力はしっかり睡眠をとる事でも回復する。いわゆるグッスリと眠る事、こうする事でも魔法力は回復する。


 ちなみにこちらの睡眠による休養、自然回復と言うような時間をかけて回復した方がよりパワーアップをするみたいだ。


 と言うのも、昨夜は軟膏を作る為に薬草を加工して『重傷治癒ぺホミイ』の呪文をかける以外にも様々な呪文を試してみた。すると薬草と回復魔法の組み合わせ以外にも相性の良い組み合わせが有り、これは使えると思ったものがあった。その為、僕は夢中になって新たな道具を作っていた。そうしたら…魔法を使い切ってしまいグッタリとしてしまった。なんとかベッドまでたどり着きそのまま寝入ってしまったのだ。


 そして朝、起きてみると魔法力が回復しさらに充実しているのが分かった。お爺さんによって回復してもらう成長レベルアップが一回り大きくなるようなものなら、自然回復は二回り…、いや三回りくらいだろうか…そのくらいのパワーアップだった。


 そんな訳で僕は朝から絶好調の状態で神殿で運び込まれてくるであろう人々を待っていると、


「シュウ君、ちょっと良いかな」


 声のした方を見るとそこには青野さん、このトームラダでは『剣の勇者ブルーノ』と呼ばれている。そのブルーノさんだが今日はスーツではなく、この世界で作られた服の上に金属製の鎧と立派な剣を身につけている。短髪をツンツンと立て、朝から爽やかな顔は肉体と共に精悍さを増したようだ。そう言えばジムとかにも通って体を鍛えていると言ってたっけ…。


 もしかすると僕が魔法に関して成長しやすいのに対して、肉体的フィジカルに成長しやすいのかも知れない。…というよりあのツンツンの前髪、どうやっているのだろう。何か良い整髪料でもあるのだろうか?


「はい、大丈夫です」


「聞いたよ、大活躍だって!お城の兵士の人達が喜んでいたよ、もう助からないかもと覚悟していた怪我を治す奇跡の癒し手がいたと」


「いえ、なんとか出来る事をやってみた感じで…」


「いやいや城は今、その噂で持ちきりだよ。まだ自分は足の怪我が癒えず四輪椅子に乗っているのに、負傷兵の治療を優先する高潔な人物だ…とね。そして今日は市井の民の治療を始めると言う、まるで聖者のようだとも言われているよ」


 うーん、凄い持ち上げようだ。正直、僕が魔法に打ち込んでいるのはある種の厨二病的熱中だ。魔法が使える、しかもそれは国民的RPGとも言えるような大作ゲームとそっくりな設定。そんな世界に迷い込んでいるともなればたぎるなと言う方が無理というものだ。


「ところで…。私は今日、魔王討伐の旅に出発する。そこで邪魔にならないよう治療が始まる前に君に挨拶をしておこうと思ったんだよ」


 さすが青野さん、出来る人。こういうさりげない気遣いが大人というものなんだろうな。魔王討伐か…。あっ、そうだ!


「役に立つかも知れない道具があるのですが…」


 そう言って僕は軟膏と松明松明を取り出した。


「この二枚貝に入っているのは軟膏です。『重傷治癒ぺホミイ』の魔法を練り込みながら調合して作りました。それとこっちは『聖照レラーミィ』の魔法を宿した松明です」


「軟膏は『重傷治癒』の魔法に迫る効能が、松明は『聖照』の魔法と同じ効果がありますので普通の松明より広範囲に照らす事ができます。また、これは実際に火を灯して使いますから迷宮などでは便利ですよ。単に明かりを灯すだけの『聖照』の魔法とは異なり松明として火が燃えている訳ですから蜘蛛の巣をあぶって焼き払いながら進んだりも出来ますよ。地面に放っても簡単には消えませんし「7


 サマルムーンさんがより細かく軟膏と松明について冒険時に役立ちそうな説明をしてくれた。


「それは凄い!なら、頂いていっても良いかい?」


「ええ、もちろん。あるだけ持っていってもらっても…」


「ありがたい、では6つずついただいていいかな?」


「もちろんです。でも、なぜ6つなんです?」


「あえ、それは…。どうやらこの国では6という数は縁起が良いらしくてね、だから旅立ちの時は6という数にちなんだ事をすると良いらしいんだ」


 なるほど、僕らの感覚で言うところのもラッキーセブンみたいな感じなのかな。そんな風な事を考えた時だった。


「お、お願いします!父ちゃんを、父ちゃんを助けてえええっ!!」


 担架たんか…、いやあれは少し厚めの板か…。それに乗せられて運ばれてくる人と、その人にすがり付いて悲痛な声を上げている少年。おそらく七歳とか八歳くらいだろうか…。

 定刻となり神殿に運ばれてきた怪我人第一号であった。



腕力ちから必要るな。手を貸すよ」


 そう言ってブルーノさんこと青野さんは運ばれてきた怪我人を寝台に乗せるのを手伝ってくれた。


 見れば怪我人には包帯ではなく何らかの布を巻き付けたようになっている。傷自体の箇所は少ないが深手のようで巻いてある布には血がにじみ、その出血の多さを物語る。急がなければ…出血多量で死んでしまうかも知れない。


「むうう…、『重傷治癒ぺホミイ』!!」


 僕はすぐに魔法を唱えた。僕の手から強い薄緑色の光が発せられ運ばれてきた人の体を包む。あっと言う間にその体に刻まれた深い傷がふさがっていく。あと残っているのは細かな傷くらいだろう。


 だが、しかし寝台に寝かされている男性の苦しそうな様子は改善していない。今すぐ生きるか死ぬかと言うような浅く早い呼吸ではなくなっているが、苦しそうにしている顔と時折もらすうめき声は相変わらず続いている。


「ど、どうして…?傷はふさがっているはずなのに…」


 サマルムーンさんも驚いている。


 もしかしてまだふさがってない傷が?僕は包帯代わりに巻かれている布切れをほどいていく。


「シュ、シュウ君。何を…?」


 青野さんも驚いている。だが僕は構わずに続けた。そして、怪我を負っていた胸板があらわになった。

 そこにはふさがり傷痕きずあとだけが残る胸板があった。しかし、そこは…。


「紫色に変色してる…」


 おそらく化膿…、いやこの傷を受けたときに毒か何かを含んだ攻撃を受けたのかも知れない。傷を受けすぐに悪い血を出し治療出来れば良かったんだろうけど、中々治療できないうちに体に毒げ回ったのかも知れない。


 この男性が毒に打ち勝てるだけの体力が有れば良いが、深手を負っていたのだからそれは期待出来ない。しかし、サマルムーンさんから『解毒』の魔法は教わってはいない。だけど僕は魔法を使おうと精神を集中させる。


「ふうう…『解毒リーキア』!」


 僕の手に白い光が生まれる。誰からも教わっていない魔法だ。僕がサマルムーンさんから教わった魔法…それはとあるRPGに登場する魔法とソックリだった。だから、そのシリーズに登場魔法は使えるのではないかと思い昨夜こっそりと練習してみたのだ。

 解毒の魔法による白い光は男性の胸を中心に広がる毒々しい紫色に変色した部分をたちどころにぬぐい去る。


 先程まで苦しそうにしていた怪我人の男性だが呼吸もゆっくりとしたものになり、今はただ眠っているだけのようだ。


「父ちゃん…」


 先程まで悲痛な声を上げながら父親にしがみついていた少年は安心したのか一気に体から力が抜けヘナヘナと膝から崩れ落ちた。


「「「うおお!奇跡だ!ザックが助かったぞ!」」」

「良かった、シュウ君!」


 男性を運んできた人達が歓声を上げた。そばでこの成り行きを見守っていた青野さんがやってきて僕達はガッシリと固い握手をした。


 そしてサマルムーンさんは…しばらく言葉を失っていたが、やがておもむろに口を開いた。


「これは…『遺失魔法ロストマジック』…」


「えっ、遺失魔法?」


「ええ。かつてこの国は別の…死と闇の魔王に侵略を受けた事があったそうです。その力はあまりに強大で我々にはなすすべも無く、滅びの時を待つのみ…そんな風に思われました。しかしそんな時どこからともなく勇者様の一行が現れました」


「勇者様が…」


「彼らは我々が知らないような強力な魔法が使えたと聞きます。その力をもってついには死と闇の魔王を討ち果たしました。その勇者様一行が使ったとされる魔法…、いくつかはそれを今の時代に伝える事が出来ました。しかし、魔王を討ち果たした後すぐに勇者様一行はお姿を消してしまわれました。教えをう事が出来た者とその時間があまりにも少なく、そのほとんどは習得に至らず失われてしまいました。当然、その後は誰もその魔法を伝えられる者はなく…、それゆえ『遺失ロスト』。失われし魔法、『遺失魔法ロストマジック』と呼ばれるように至ったのです」








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