#5 勇者流、魔法活用術。

【はじめに】

 ドラゴンクエストシリーズの回復呪文として知られるホイミ。薬草と同じくHPを30ポイント前後回復する事で知られています。


 しかし、ファミコン版の初代ドラゴンクエストではその回復量はほんのわずか。HPを10数ポイント回復するだけ、薬草は30ポイント程、ちなみにその上位呪文であるベホイミは100ポイント程回復させます。


 シュウが使う治癒魔法についての記述はその効果を踏襲し物語を展開していきます。



 魔法力が枯渇した僕は回復してもらってから魔法の鍛錬を再開した。僕の特性である魔法を繰り返し使う事でその魔法の練度が磨かれ、威力や効果範囲が増していく。そして魔法力が尽きそうな状態で一気に回復すると魔法力の限界と魔力がグンと上がる。


 それが分かったので僕は魔物の軍団により負傷した兵士の方がいる場所に連れてきてもらった。


「ふううぅぅ〜、『重傷治癒ぺホミイ』!!」


 全身が包帯でグルグル巻きになっていた重傷の人に回復魔法をこころみる。呼吸も浅く、漏れるのは苦痛のうめきばかりだったが魔法の効果が現れてからはだいぶ落ち着いた。


「う…、俺は…助かったのか?」


「はい。傷が深すぎて完治とまではいきませんでしたが、深手と言うような傷ではなくなっているかと思います」


「ああ!このくらいの痛みなら兵士にとってはかすり傷だ。アンタには世話になったみたいだな、ありがとう!」


「いえ、それよりもあなたの体は傷を治そうとたくさんの栄養を必要としています。お腹は減っていませんか?」


「あ、ああ。じ、実は恥ずかしながら急に空腹を感じて…」


「そうでしょう、あちらで消化の良い物を用意しています。まずはそれを食べて体を休めて下さい」


 そう言って僕はサマルムーンさんをはじめとして巫女さん達が炊き出しをしてくれている場所を指し示した。


 その要領で僕は重傷の人達を次々に回復させていく。『重傷治癒』の魔法は魔法力を大きく消費する。十回ほどで僕は限界を感じ始めた。幸い、ここにいた重傷者達の回復は終わらせる事が出来たので神殿横の祠のお爺さんの元に連れて行ってもらう。


 再び回復してもらうと今回もやはり成長を実感する。筋力とか肉体的フィジカルな面の成長は感じないが、魔法関連に関してグングン成長していくのを感じる。


 今度は重傷ではないものの怪我を負っていながらも任務を勤めている兵士の人の中から希望者には勤務が終わった後や休憩の時間に先程まで重傷者でごったがえしていた部屋に来てもらった。


 その人達にも次々と『重傷治癒』の魔法をかけていく。本来ならこの魔法を使うほどではないのだが、かと言って『軽傷治癒ホミイ』の魔法を使うのは実は効率が悪い。この『軽傷治癒』、効果がすぐに現れるのが利点だがその回復量はほんのわずか。回復の度合に関しては薬草を患部に塗っておいた方が時間はかかるが効果があるくらいだそうだ。


「うーん、薬草かぁ…」


 僕には一つ、思いついた事があった。



「薬草…、ですか…」


 その日の夕方、兵士達の治療が終わり神殿に戻ると夕食を食べながら早速サマルムーンさんに薬草について尋ねてみた。『軽傷治癒』の魔法より人体に効果があるという薬草…この薬草をせんじて飲んだり、すり潰して患部に塗ったりして使うらしい。

 そんな回復効果があるという薬草を単純に見てみたいと思ったのだ。


「はい、回復量だけなら薬草の方が『軽傷治癒』の魔法より優れていると聞きました。魔物の軍団がまた攻めてくるかも知れません。その時に備えて魔法を鍛えるのと同時に、魔法以外にも回復手段を用意しておくのは有効かと思いまして…」


「分かりました。神殿の敷地の一角に薬草を栽培している場所がありますので…」


……………。


………。


…。


「これが薬草…か」


 与えられた居室に戻り、もらってきた薬草の葉を調べてみる。


 薬草は紫蘇しその葉を大きくしたような…、大人の手の平ぐらいの大きさのものだった。同じ形だが緑色の物もあれば、数は少ないが黄色や赤い色の物もあった。


「これに回復効果があるのか…。『軽傷治癒』の魔法よりも強い効果が…」


 薬学に関して僕は素人だからなあ…。正直言って『これが薬草だよ』と言って渡されたら僕は疑いも無く使ってしまうだろう…。


「これが『軽傷治癒ホミイ』よりも…あっ!」


 僕は無意識のうちに軽傷治癒の魔法を発動していた。薬草を持っていた右手に宿った薄緑色の光、それが薬草に伝わりかすかな光を帯びていた。


 しかし、良く見てみるとその光を帯びている部分にはムラがあった。薄暗い部屋の中ではその光具合がよく分かる。薬草の葉をかしてみると、葉っぱのスジ…いわゆる葉脈というやつだろうか。この部分は光が弱い。もしかするとこの部分は効果が弱いのだろうか。試しに葉を千切り葉脈の部分を取り除く。これで回復効果の高い葉脈抜きの薬草の葉が手に入った。


 試しにもう一度『軽傷治癒』の魔法を使ってみた。すると薬草はさらに強い光を帯びた。そしてそれは時間が経っても薄れていくような気配はない。どうやら乾燥させなければ効果は維持出来そうだ。


 試しに僕は薬草をナイフで細かくみじん切りにしてみた。すると薬草に宿った薄緑色の光がより強くなる。もしかすると空気に触れる面積が大きくなるほど治癒の効果が出るのだろうか。そう言えば、ワサビってこまかすり下ろした方が風味が強くなるとか聞いた事がある。似たような感じだろうか。


 そう思った僕はより細かく、それこそすり下ろすような事は出来ないかと考える。お寿司屋さんとかだとワサビを専用のサメ皮で出来た器具ですり下ろすらしい。急ぎサマルムーンさんに相談に行くと、乳鉢と乳棒のセットを貸してくれた。彼女の部屋で僕の予想が正しいかどうか、早速乳鉢を使って細かく細かくすり潰していくとペースト状になった薬草はさらに光を強くし、数センチ程度なら薄暗い場所を照らせるくらいになった。


 『軽傷治癒ホミイ』の魔法でこの効果なら…、意を決して今度は『重傷治癒ぺホミイ』の魔法を薬草に宿るようにしながら行使してみた。


 するとペースト状の薬草は群生した光苔ひかりごけのように輝き出す。それは小部屋程度なら照らす事が出来る光、さすがに本を読んだり細かい作業をするには不向きだが満月の晩の外歩きが出来る程度の明るさはある。


「この治癒の魔力の乗り具合…、とても素晴らしい軟膏なんこうのようです」


 サマルムーンさんはそう言うとなにやら道具を取り出した。それはぴったりと合わさった二枚貝。なんでもこの貝殻かいがらは隙間無く合わさるのが特徴で、乾燥しやすい塗り薬などを保存するのによく使われるらしい。


 ちなみにサマルムーンさんの見立てでは、『重傷治癒ぺホミイ』にやや劣るがそれでも超高品質の傷薬である事は間違い無いという。


 でも、これは考えようによっては色々と使えるんじゃないか?なんでも、僕の魔法の先生とも言えるサマルムーンさんでも『重傷治癒ぺホミイ』の魔法は使えないという。現状、この魔法が使えるのは僕だけらしい。


 と、いう事は大怪我を負った人を魔法を使って癒せるのは僕がいる場所に限られるが、この軟膏があれば僕がいなくても怪我人を治療する事が出来る。前もって作っておけば魔法力切れで倒れる事も無いんだし…。それに、怪我をした人に対応するにはとにかく迅速な対応を求められる時もある。だから今のうちに前もってこの軟膏を作っておこう。


 それにこの方法なら魔法のカラ撃ちじゃないから魔法力のムダにはならない。魔法の成長…熟練もしていくし、魔法力を使い切り一気に回復させるという某野菜の惑星の人達のように『瀕死からの全快でパワーアップ』みたいな裏技的な鍛錬にもなる。


 他にも何か出来る事があればやれるうちにやっておこう。陽は落ちて夜を迎えたがまだ今日が終わった訳ではない。まずは軟膏作りから…、僕はやる事を考えながら行動を開始したのだった。


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