#4 さすが魔法の勇者!復活したらグンと魔法力がアップしたぞ!

【皆様へ】


 この章では『なぜ世界から男が姿を消したのか』を書いていきます。なぜ、いきなり異世界転移?というコメントをいただき始めましたがその辺もふくめて書いていきますのでお付き合い頂けると幸いです。今章は十数話を予定しております。



 僕は左足の骨折の治療を受けながら魔法の鍛錬をしていた。勇者として魔物討伐の旅には出なくても

自分の長所を伸ばしておくのは無駄ではないだろう。

 仮に討伐に行かなくても、逆に魔物が攻めてくる場合もある。その時に力をつけておけば切り抜ける事も出来るはずだ。それに…これなら極端な話、立ち上がらなくても魔法の練習が出来る。聞けば青野さんも剣の修行を始めたそうだ。基本的な戦い方をマスターしたら魔物討伐に向かうという。


「ぬううう〜ん、『軽傷治癒ホミイ』!!」


 ポワアァァ…、柔らかな薄緑色の光を僕の左足に当てる。だが、その効果はほんのわずか。若干痛みが引いたかなという程度のものだ。


「さすがシュウ様…、たった一日でたいていの魔法を使いこなすとは….」


 サマルムーンさんがそんか感想を述べた。というのも僕は彼女の手ほどきにより上位魔法と呼ばれる『重傷治癒ぺホミイ』と『豪雷ぺラギマ』の二つを除けば全てマスターしていた。


 と、言ってもその魔法の種類は全部で十種類。だから僕はそのうちの八種類を習得した事になる。これらの魔法を習得出来たのはサマルムーンさんの教え方が良かったのと、おそらくは魔法の素養があった事、そして一番大きいのは教わった魔法がどこかで見たり聞いたりした事がありイメージしやすかったからだと思う。


 しかし魔法が全部で十種類しかないのはなんとも少ない。だがまずはこの使えるようになった魔法をとにかく試して慣れてみよう。そんな風に考えてとにかく数をこなすとだんだんと威力や効果範囲が増してきた。


「これは…魔法の成長?いや、それとも習熟?」


 サマルムーンさんが驚いた様子を見せる。魔法はだいたい同じような効果を常に発揮するそうだが、僕の場合は成長している。それが普通はありえないらしい。しかし、良い事ばかりではない。魔法が成長する事が嬉しくひたすら魔法を使用していたら、だんだんと体に力が入らなくなくなってきた。

 それでもあと一回や二回は魔法が使えるかと試していると、いよいよガクンと体から力が抜け始めた。


「い、いけないっ!」


 サマルムーンさんが慌ててこちらに来る。


「うう…」


 凄まじい倦怠感に襲われ僕は言葉を発するのも辛い。


「こちらへ…」


 サマルムーンさんはそう言って、他の巫女さんに僕の乗る椅子を押させる。最初に座った簡素な物ではなく、今の僕が座っている椅子は地面に接する場所に四つの車輪が付いている。いわゆる車椅子のような使い方をされていた。

 遠くなりそうな意識をかろうじてつなぎ止め、どこかへと運ばれようとしていく光景を僕は焦点の合わない視界の中でぼんやりと見つめていた。



「光あれ!」


 神殿を出て少し行ったところにそのお爺さんはいた。グッタリした僕を見るとすぐに杖をかかげ短い言葉を発した。

 すると先程までの辛さや倦怠感はたちどころになくなり、先程まで乾ききった体に水が染み込んでいくような感覚。魔法を使うたびに消費する魔法力というものが体中に満ちていく。完全に回復した…、それが感覚的に分かった。いや、それだけじゃない!


「ち、魔法力ちからが…、あふれてくる…!」


 なぜか新しい力がみなぎってきた、これならいけるかも知れない。


「むううぅぅ!『重傷治癒ぺホミイ』!!」


 治癒呪文独特の薄緑色の光、だがそれは『軽傷治癒ホミイ』よりも強い光。僕はそれを自分の左足に向ける、骨折している僕の足へ。

 たちどころに傷が癒えていくのが分かった。初めて使った魔法の為、不慣れな魔法の行使は左足を完治させるには至らなかったがかなり状況が良くなった事だけは良く分かる。


「す、凄い…。重傷治癒ぺホミイまで…」


 僕の乗る四輪車を押してきてくれた巫女さんが感嘆の声を上げる。


「いえ…。もう一つ、さらにもう一つの魔法を行使する事が可能なようです…」


 僕はそう言って四輪車から立ち上がる。完治をしていない為に地に着いた足に痛みが走る。今いる場所は王城トームラダの外れにある神殿、その外周部にある小さなほこら。奥には石畳が広がるのみで他には何一つ人も物も見当たらない。これなら…。


「すいません、奥の広場に魔法を放ちます。皆さん、身構えていて下さいね…。上手くいって…、上手くいってくれよ…『豪雷ぺラギマ』!!」


 凄まじい轟音と共に落雷の衝撃が走る。凄い…、はるか南の闇の森にいるという凶悪な魔獣さえ一撃でほふるというのがこの魔法…。どうやらその言葉に偽りでは無いようだ。


「なんと…。轟雷ぺラギマまで…」


 お爺さんも祠から身を乗り出し、轟雷の魔法を目の当たりにして目を丸くしている。


「シュウ様…、なんという事でしょう…。魔法力が枯渇した状態から復活したらグンと魔法力が増して…。明らかに実力も上がっています…」


 サマルムーンさんも驚いている。


 どうやら僕は魔法力を使い切った状態から回復するとパワーアップするみたいだ。なんか重傷を負い死の淵から復活すると戦闘する力がグンと跳ね上がる民族が登場する漫画があったっけ…。


 だけどこれは良い…。魔法力を使い切り、回復してもらえばそのたびに僕はパワーアップできる…。これなら危険も無いし効率も良い。それに療養しながら力を蓄える事が出来る。


「よしっ!やるぞ…って、アレ?」


 僕は自分の体の異変に気付く。


「お腹すいた…」


 そこにいたサマルムーンさんや巫女さんが笑う。


「無理もありません。治癒の魔法は体に働きかけて体を治そうという力を爆発的に引き出す魔法です。ですが同時に体は治すだけの栄養を消費してしまうのです」


 なんと…!?どうやら凄い魔法と言えども万能ではないという事らしい…。この世界の事をまた一つ知れた、そう僕はそんな風に思った。

 


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