第3章 十五年前のあの日、男性が消える世界

#1 帰り道の衝撃。

【はじめに】


 この章はマジな内容が多くなります。

 いわゆる異世界転移、そこになぜ『男性が世の中から姿を消したのか?』という経緯を書いていきます。RPG風になりますが是非よろしくお願いします。



 署長室で昼食をとっていた僕の意識が遠くなっていく。。だが、代わりに思い出した事がある。


 それは僕が数日前の河越八幡警察署に保護されるより十五年前の事。空白の十五年間と言われたその始まりの日の事だ。


 僕の名を呼ぶ署長さん達の声が遠く小さくなっていくが、なぜか忘れていた記憶を思い出す僕の頭の中は澄んでいく。やがて署長さん達の声が完全に聞こえなくなった頃、思い出し始めた風景は目に映るものも耳にする音も風が運んでくるにおいまで鮮烈に蘇ってくるようだった。



 2021年4月、僕は高校に進学した。通うのは家から最も近い公立校、河越北条高校である。自宅から歩いて通える距離にあり、3月まで通っていた中学校よりも高校の方が近くなったくらいだ。


 そういう意味では中学校と高校という通う学校こそ変わったが、生活環境に大きな変化はなく制服も中学校と変わらず学ランのままなので校章とボタンを高校の物に変えればそれでお終い、外見的には中学の時とさして変わらない高校生活のスタートとなった。


 河越北条高校…、戦国時代にあった河越かわごえ城の敷地の一角に建っているらしい。学校の西から北にかけて小さな川が流れ、これが昔はさらに広い川だったらしく天然の堀の役目を果たしていたらしい。


 また校舎から少し離れているが、現在では古刹こさつとしてして知られるお寺の嘉夕院かゆういんは仏教寺院であると共に当時は城の南東側を守る出丸でまるも兼ねていたという。


 かの豊臣秀吉は若い頃『城を建てるのはどんな場所が良いか』と配下の者に聞いた時、『寺が建っているような場所が良い』と配下は答えたという逸話を聞いた事がある。


 そのげんが真実だとすれば、なるほどお寺を城の防御施設として組み込む事は理に叶うというものだろう。


 入学して数日が過ぎ学校では授業が本格的に始り、僕個人も全員ではないがクラスメイトの名前も覚えた。コミュニケーション上手な人達や美男美女の人達は男女交えて放課後、駅前のカラオケに行くらしい。

 僕はと言えば放課後はバイトだ。近所の牛丼屋で昨日から働き始めた。仮に誘われたとしても行けない、まぁそもそも誘われていないんだけど…。



 放課後、僕はバイト先に向かう。


 昔はメニューも牛丼と卵、味噌汁に漬物くらいだったそうだが、競合他社が増えた結果やる事ばかり増えていく…そんな風にベテランのバイトの人が言っていた。せいぜい牛丼の並か大盛りか気をつければ良かったが今は牛以外の具やトッピングも気をつけなきゃ行けない。季節限定メニューなんかもある。それでいて時給は変わらない。


「なんで牛丼屋がどこもかしこも競ってうなぎ売ってんだよなあ。鰻屋に任せときゃ良いのにさぁ」


 僕以外には二人の男性アルバイトしかいない時間帯のせいか先輩アルバイトからはボロボロと不満が洩れた。これで女性アルバイトでもいればもう少しカッコつけると言うかマシになるのかも知れないけど…。


「まあ、それでも深夜に一人で店を回さなくてよくなったんだから助かってんだけどなあ」


 もしかしてストレスの多い職場なのだろうか。なんかちょっと不安になってきたぞ…。


「んじゃ、今日もやるか。大丈夫だ、俺達もロクに研修なんかしてねーし。手だけはいつも綺麗にしときゃ良いから」


「それが一番難しいんだよな」


「だなー」


 そして僕の二日目のバイトが始まった。



「お疲れ様でしたー!お先失礼しまーす!」


 生活サイクルの多様化…、そんな言葉を聞いた事がある。例えば仕事が夜勤中心の人はおのずと昼夜逆転生活になる訳だし、仕事や勤務時間帯の多様化は生活リズムの多様化につながる…ひいては食事するタイミングもバラバラになると思っていたんだけど…。


「そんな事なかったなあ…。まだまだ一般的な生活をする人が多いや…」


 僕は基本的に僕は各テーブルに商品を持って行ったり、食事の終わったテーブルの片付けをしていた。事前に食券を購入するスタイルの店舗の為、注文取りや会計をしなくて良いのは助かる。


 しかし、夕食の時間帯はいわゆるラッシュアワー。店内で食べる人もいれば、持ち帰りの人もいたりと何かと店の中を動き回るし何より来店客も結構多い。


 接客業も、アルバイトも初めてだから余計な力が体に入っていたのか意外と疲れている。これは早く帰って休んだ方が良さそうだ。


 そう思った僕は自宅へと急ぐ。県道が交わる交番横のT字路交差点に着いた時、丁度信号が青になった。自宅が県道の向こう側にある事もあり、青になった信号は僕にはまさに渡りに船。すぐに横断を開始する。

 それと言うのもこの交差点、県道側をとにかく優先していて、交差する側の信号はなかなか青にならないのでこのチャンスは逃したくないのだ。地元民なら多少無理してでも渡ろうとする、そのくらい非優先側の信号は不遇なものだった。だからこそ青信号と分かれば反射的に渡ってしまう。


 横断歩道を渡り始めた僕。と、そこに僕の左の方から強い光がこちらを照らす。慌てて首を左に向ければ強烈なヘッドライトが網膜に焼き付く、迫る車、トラックか!!?


 トラックはスピードを緩める様子はまるでない。思い出した!ここは魔の交差点。この県道は市の中心部に行くには便利だが、渋滞しがちな国道に対しての抜け道になっている。信号も少なく農地も多いのでトラックの利用率が高く、かつ漫然と運転してしまう為に事故が多いとも…。

 だから横断する時はこちら側が青信号でも、油断無く左右確認くらいらした方が良いって小さいこあから言われていたっけ…。トラックが突っ込んでくる…、そんな切羽詰まった状況なのに僕はと言えばそんな事を考えていた。体は動かないのに、脳だけが回る。それも凄まじい速さで。


 だが、いくら脳内の動きが速いと言っても限度がある。トラックはすぐ近くまで迫っていた。



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