#10 再会、十五年ぶりの家族。
警察署に着くと病院の時と同じように熱烈な出迎えを受けた。ここにもカメラを持った人がいる。
よく分からないが署長さんや警察のお偉いさんと記念撮影し、また警察署の皆さん全体の集合写真を撮った。
「オラー、お前らメイクに
署長さんがそんな声を上げている。
「そっか…写真か!」
「どうしたんですの?」
「シュウ〜、一緒に写メ撮ろーぜ!」
「あっ!ずっ、ズルいですわ!わ、
「瀧本ーッ!武田ーッ!職権を濫用するなっていつも言ってンだろーが!」
美晴さんと尚子さんが署長さんに耳を引っ張られ再び退場していった。
「ウチの馬鹿がすまない…」
戻ってくるなり署長さんが頭を下げる。
「いえ…」
僕は力無く応じた。なんだろう、豪快に見えて署長さんも苦労してるんだなあ…。
□
「修クン!修クンなのね!」
警察署内に入り会議室と表記された部屋に入ると一人の女性が僕を出迎えた。この呼び方、声…、その姿も覚えている…。
「ま、真希子さん」
ぼ、僕はその人の名を呼んだ。すると、その女性の表情がたちまち曇る。
「しゅ、修クン…。じゅ、十五年…、十五年も経つのにまだ私を『お母さん』とか『ママ』って呼んでくれないのね…。私、悲しいっ!!」
あああ、間違い無い。他の事はしっかりやるお母さんなのに、呼び方に関してはたちまちポンコツになって僕にウザ絡みになるところ変わって無いなあ…。
この人は佐久間真希子さん、僕の母。あえて言えば父の後妻である。僕の生みの母は幼い頃に病没していてた。そして、中学校三年の時に父と真希子さんが再婚をしたんだ。当時、真希子さんは19歳。僕にしてみれば母と言うよりはお姉さんといった感じだった。
うん。警察とか政府を疑う訳じゃないけど、僕にこんなウザ絡みをしてくるあたり真希子さんの偽物とか替え玉ではないみたいだ。ただ単に僕や家族のデータを叩き込んだだけじゃこういう反応は再現しないだろう。
あれ…?でもそう言えば真希子さんには…。
「あ、あの…。あなたが…お兄ちゃん…?」
真希子さんの後ろに隠れるようにして、小柄な女の子が立っていた。僕をお兄ちゃんと呼ぶこの子は…。
「ま、
「うん!!」
し、信じられない。あの赤ん坊だった女の子が…、すっかり大きくなって…。真唯は僕の妹…、血は繋がっていない。真希子さんの連れ子だ。
真希子さんは真唯と母一人子一人だった。それが死別によるものか離別なのか、それは僕は聞いていないけれど。
だけど、真希子さんはそんな時に父さんと出会い結婚をしたんだ。互いに新しい家族を得た、そこに僕が加わりぎこちなく手探りだけど家族のカタチを探した…。そんな時だった、僕の父があっけなく病没してしまう。
残されたたのは僕達三人。僕には祖父母を頼るという選択肢もあったが真希子さんは一緒にいないかと聞いてきた。
僕には経済力は無い。だけど祖父母の元なら食べていく事は出来るだろう。だけど住み慣れたこの河越八幡の町から遠く離れなければならない。
乳飲み児の真唯を抱えて僕までいては楽な暮らしになる訳はないだろうと感じていた。まだ十代中盤の僕でさえそう思うのに僕よりも歳上で母親である真希子さんはもっともっと痛切に感じていた事だと思う。
それこそ僕の手を離したとしても仕方ないと思えるくらいに。だけど真希子さんはそれをしなかった。それからだろうか…、僕達は『家族』だってより強く思えるようになったのは…。
これから…、これから埋めていこう。十五年の空白を…、家族としての十五年を…。僕はそんな風に考えていた。
□
真希子さんと真唯ちゃんとの再会の時間はつつがなく終わった。短かったけど、時間はまだまだある。これから一緒に暮らしていけば良いんだと思う。
今、僕は署長さんと一山さん、そして警察のお偉い人達と話している。
「なるほど…。希望としては高校に復学してその後はなんらかの職に就いて暮らしていきたいと…」
「はい、まずは高校を卒業したいです。そして高校生活を送りながら就きたい職を考えたり、あるいは進学を考えていきたいと思います」
「そうか…。確かに小さな頃から強く憧れていた職というような事でもなければそう簡単には決められるものではないからなあ…」
僕の話を聞き取りながらお偉いさんの女性はそんか風に応じる。
「小さな頃ですか…。そうなると刑事さんになってみたいとかありましたね。あとは派出所…、いや交番でしたか。そこで勤務してみたいなとか思ったものです」
「「ッ!!!」」
やっぱり子供心に拳銃って持ってみたいって思うものだ。多賀山さん達が持っていた拳銃を見てもの凄く羨ましく思ったし…。
それに交番で勤務してみたいというのは、某有名漫画の影響も大きい。はちゃめちゃな事をする男性警官が主人公の物語だが、色々な金儲けやら趣味の話も多く楽しく読んだものだ。
「佐久間君…」
「は、はい!」
いつの間にか警察のお偉いさん達が僕の横にまで来ていた。そして何か力強い目で僕を見ていた。
「そうか、警察官や刑事に憧れを感じていた時期があったのか…」
「は、はい。今回の警護の時も刑事さん達にはとてもよくしてもらいましたし…」
「うーむ。君さえ良ければだが、是非いつか一緒に仕事をしてみたいものだな」
「あ…、は、はい」
「…うん。龍崎君…、ちょっと」
そう言ってお偉いさん達は署長さんを連れて部屋をそそくさと出ていく。そして一山さんと僕だけが残された。
「すまないね…、どうやら急に話すべき内容が出来たみたいで…」
「そうなんですね。警察の方は色々お忙しいんですね」
そう
「それはそうと…」
一山さんが僕に問いかけるように話し始めた。
「君は十五年前の四月九日。事故に遭ってはいなかったかい?あの交番の前の交差点で…」
まっすぐに僕の目を見つめる一山さんの目は尋問を開始した刑事のそれであった。
□
一方その頃、県警幹部達は…。
「お、おい。聞いたか!あの少年の発言を!!」
「もしかすると我らが警察を志望するかも知れないじゃないか!!龍崎君、キミ、分かってるね!?」
警察機構の幹部達が沸きたっている。
「しかも、どうやらこの河越八幡署を憎からず思っているようじゃないか!ひいては我が埼○県警への良いイメージにもつながる!」
「もしこれでウチの県警に入ってくれれば…。クク…、本庁さんの鼻を明かしてやれるぞ!大金星だ!ニュースにもなる!!」
「あの少年…、決して逃すなよ!必ず、ウチに入れるんだ!」
盛り上がる幹部達に一応合わせる龍崎署長。
「それにな…」
「はい」
「ウチの娘も近い年齢でね…。もし同じ職場になれば…くっつくかも知れんだろ?色々と…、色々と期待を持たせてくれる少年だ」
もうここまで来ると職権濫用と言うのが馬鹿馬鹿しくなるな…、龍崎はそんな風に思い始めていた。そしてあの佐久間修という少年のこれからが大変だな…とも。
まあ、誰が何を言おうと守ってやろうと思う。そうでないとウチの
さて誰を護衛に付けるかな…、龍崎は頭の中で人選を急いだ。
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