#8 修、ポロリする!?
浦安さん達と食堂で昼食を
浦安さん曰く、僕はどうやら女性慣れ…。いわゆる恋愛的なものではなく、この女性だらけの社会における一般的な女性の行動や心情というものに慣れていないようだ。
「女性目線…、それを常に意識して欲しい。君は常に見られている、それが遠くから眺める憧れのようなものなら良い。しかし、それが暴発すると例の性犯罪被害者のような目に遭ってしまう」
僕は以前に聞いた中学校内で起きた用務員さんが被害者になった女子中学生十数人による事件の話を思い出した。
「実は未遂も含めれば一番性犯罪を起こしやすい年代は中学生、高校生くらいの年代なんだ」
多賀山さんがハンバーガーを食べながら話す。大信田さんもまた同じメニューだ。どうやら二人はいざとなれば歩いたり、車を運転しながらでも食べられるようなものを好むようだ。
「そうそう。生理が始まって一番体が若い時だからな。何より卵子が元気なんだよ。まして思春期、色んな事にキョーミシンシンって年頃だ。頭の中なんて『いろいろヤろうぜ』とか考えてんじゃねーか?」
大信田さん、ぶっちゃけ過ぎです。
「コホン!大信田さんの言い方はともかく、若年層が犯行に及びやすいというのは本当ね。その年頃の子は体が出来つつある、それこそ生理がある以上は子供を産めるという点では
崎田さんが大信田さんをたしなめるようにしながら話している。
「その年頃の娘達はこうと決めたら…、というか思い込んだら行動に出やすい世代だ。気をつけるんだよ、君はこれから高校生になるのだから」
浦安さんが最後にまとめるように言った。
□
夕食時に署長さんと一山さんがやってきたので総勢七人、食堂にやってきた。僕が頼んだのはハンバーグとエビピラフのセットだった。
「いや…、スゲぇな。少年は痩せの大食いか?」
僕の持っているトレイの上を見て署長さんが言った。そう言うのも無理はない。山盛りのピラフにハンバーグが二枚、確かに大食漢が食べるような量だ。
「いえ、いつも食堂の方が大盛りにしてくれて…」
「あ、そういう事か…」
そう言いながら署長さんと一山さんはなにやら納得している。これは自然な事なんだろうか。
「そうそう、少年。聞いてるとは思うが、退院許可出たぜ。明日の午前十時には病院を出るから準備を忘れずにな」
ざわっ!!途端に周りのテーブルで食べていた病院スタッフの人達がざわつく。
見れば若いスタッフさんを中心に何やら落胆したような表情を浮かべるような人も、逆に目に焼き付けておこうとするかのように凝視している人もいる。
「
ため息をつきながら一山さんが伺いを立てる。
「そうだな、万が一に備えるか。そうだな…瀧本と武田を呼んでやれ、アイツら喜んで来るだろ?」
「分かりました、早速手配します」
そう言うと一山さんはすぐに電話をかけだした。
「それと、君の事だが…」
署長さんが声を潜めて話す。
「君の主張通り年齢は十五歳という事になったよ。歯の治療痕、高校入学当初の身体測定のデータ、外見的特徴や肉体年齢のデータを算出してみたがどれをとってもデータ採取時とほとんど差がないばかりが、他の計測データもそのぐらいの年齢と算定されたよ」
本来、僕は三十歳なのに十五歳。失われた空白の十五年はどこに…。そんな疑問が頭に浮かぶ。
だが、今はこれからを考えよう。
□
一時間後、修の病室の前の廊下では…。
「な、なんでオレ達が部屋の外の警備なんだよ!」
女性刑事、瀧本美晴の絶叫が響く。
「
「だいたいなんだ!?その洗面器とシャンプー&ボディソープは!お前ら、一緒の風呂にでも入りにきたのかッ?」
「そうだ!」
「その通りですわ!」
「「馬鹿か、お前らーッ!?」」
多賀山と大信田の絶叫が響く。
「
「
「明らかに人選ミスだろぉ!
しかし、そこに新たな集団が現れる。
「お風呂だって…」
「混浴、良いんだ…」
「じゃあさ…私達が」
「入浴介護しちゃおーよ…、
「そうそう、その後はサービスしちゃえばさあ…」
「それに明日退院なんでしょお…」
「ならヤる事ヤッとかないとねえ…」
「夜勤だしさあ…」
「だよねえ…、夜は長いんだからさあ…」
白い服を着た女性の一団がいた。時に白衣の天使と呼ばれる事もある看護師の集団だった。だが、その身に宿す雰囲気はドス黒いものであった。
欲望に身を焦がし、ゾンビのように…あるいは無有病者のように修のいる病室に近づいて来る。
ばぁん!!
銃声。多賀山刑事が床に向けて一発、威嚇射撃をする。
「よぉし!そこまでだ!河越八幡署の多賀山だ、この病室とその周囲は特別侵入禁止区域に指定されている!それ以上近づいて来るなら発砲も辞さない!」
「全員ここから引き返せ!そうでないなら全員…」
相棒の大信田刑事が胸元から取り出した
「穴ァ…開いちゃうゾ♡」
そう言って多賀山刑事の横で構える。
「ちぇっ、しゃーねー。尚子、仕事だ。仕事仕事!」
「もうっ!せっかく修さんのお背中流しながら色々な所に偶然手を滑らせる予定でしたのにっ!」
ヤレヤレと言った感じで美晴が、楽しみを邪魔されて憤慨したように尚子が銃を引き抜く。
それを見て看護師達が形勢不利と見たか、後ずさりを始める。しかし、その時歴史が動いてしまった。
「い、今の何の音ですかっ?皆さん、大丈夫!?」
ガーーーッ!!横開きのスライドドアが開き、なんと護衛対象の修が顔を出して叫んだ。
「大丈夫だッ、シュウ!!ウ、ウボアァァァァ!!」
「そうですわ、修さん。中に入ってらして……イイヤッホーゥイッ!!」
なんと修は入浴中に銃声を聞いたのか、腰にバスタオルを巻いただけの格好でスライドドアから身を乗り出していたのだ。
その姿を間近で見て早くも美晴と尚子の二人が歓声を上げる。
しかし、少し離れたところでその姿を目撃した看護師達にも変化が起こる。多賀山刑事の威嚇射撃に引き下がろうとしていた看護師達の目に欲望の火が灯る…。
「て、『天然の男』が…バスタオル一枚で…」
「フ、フヒヒ…。も、もう撃たれたって良いや…」
「そ、そうよ。わ、私…幼稚園のお遊戯以来、お、男の子に触れた事なんて無かったんだから…」
「こ、これを逃したら男に触れる事なんてもう一生無いかも知れないんだし…」
「ひ、引かぬ!媚びぬ!省みぬゥ!」
後ずさりを始めていた看護師達が踏みとどまったのだ。四人の刑事との睨み合いが始まる。
「シュウ、部屋に隠れてろ!」
「は、はい!」
美晴のいつもと違う様子に修は部屋に戻ろうとする。しかし、その時
「あっ!」
修が小さな声を上げる。
部屋に戻ろうとした修の腰に巻かれたバスタオルがハラリと素晴らしいタイミングではだける。しかし、ポロリする寸前で修はバスタオルを押さえ、何かがコンニチワする事はなかった。しかしそれが暴発のきっかけになった。まさに『火蓋を切る』という表現が当てはまるようなそんな状況である。
「あのバスタオル、引っぺがすゥゥゥゥ!」
看護師達が飢えた狼の群れの如く押し寄せる。
「発砲許可ッ!」
多賀山刑事が叫び、修の部屋の前に四人の刑事が立ち塞がる。共に引けない長い夜の始まりである。
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