#6 男は三毛猫
僕は浦安さん達が確保してくれているテーブルに若干ヨタヨタしながら歩いていく。なぜなら手に持ったトレーにはとんでもない量を盛られた唐揚げとご飯が目立つ定食メニューがあったからだ。
「あらやだ!流石に男の子、すごいわね!」
浦安さんに次いで年長の崎田さんが僕の定食の量を見て目を丸くしながら言った。
「い、いえ。食券を渡す時に大盛にしときなよと勧めていただいて…。でも、ここまで大盛…いや特盛とは思っていなくて…。食堂ってどこもこんなにサービスが良いんですか?」
「いや…」
長身の女性刑事、黒スーツが似合う多賀山さんがトレーにサンドイッチとコーヒーを載せてやってきた。そして、僕の向かい側に座りながらどこか甘みのある低い声で話しかけてくる。
「君が男だからだろうな」
「えっ?」
「ウチの署を見てもらえば分かると思うが、女しかいなかったろう?だから何かと男の事となると
「
多賀山さんの言葉を受けるような感じで大信田さんがその隣に座りながら話しかけてくる。多賀山さんと異なりやや声は高めだ。同様に背も少し低いが、それでも女性の平均身長よりは高そうだ。鮮やかな明るめの紺色のジャケットがよく似合う。
「その『天然』というのは、そんなに凄い事なんですか?」
僕の問いかけに刑事さん達が一瞬唖然としたが、浦安さんがすぐに立ち直り話しかけてくる。
「実は君をここに呼んだのは、そのへんについても話す為でね」
浦安さんはそう言いながら、まずは温かいうちに食べようと言う事になり僕たちは昼食をとる事にした。
□
五人でテーブルを囲み昼食を食べながら、先程は名前程度の自己紹介だったがもう少し踏み込んだ話をしていく。
「
「
「
「
多賀山さん大信田さん、浦安さん崎田さんがそれぞれコンビ…バディと言うものだろうか普段から共に行動しているらしい。
それにしても、日替わり定食の唐揚げが減らない。頑張って食べているが量が量だ、唐揚げの山がいまだにそびえ立っている。
悪戦苦闘している僕を見て崎田さんが『ちょっともらって良い?」といくつか引き受けてくれた。
「
「良いんですよ浦安さん。揚げ物は別腹なんですから」
「え?甘い物じゃないんですか?」
浦安さんと崎田さんのやりとりを聞いて僕は自分の知っている一般的な認識を聞いてみた。
「そんな男がいた頃みたいな考えしてる女はほとんどいないよ。一個、もらって良い?」
「あ、アタシもー!今は男いないからねー、色気より食い気よ!」
多賀山さんと大信田さんも唐揚げを引き受けてくれた。唐揚げをサンドイッチに挟み込み、いびつな形のサンドイッチにしながら食べている。
「
唐揚げを食べないの?とばかりに多賀山さんが訊いた。
「いや、健康診断の結果が気になってね」
浦安さんはそう言って唐揚げを遠慮した。だが、三人のおかけで唐揚げがだいぶ減った。これなら食べ切れるかな…、うーん食べ切りたい。
「佐久間君、凄いサービスだろう?」
「あ、はい。ビックリしました。大盛りの食券も買ってないのに」
浦安さんの問いかけに僕は応じる。
「先程少し言いかけた事だがこれから先、君はこうした毎日を送っていく事になる」
「えっ」
「あまり派手に視線を動かさずに、決して視線を合わせないように…。注意しながらチラチラと食堂全体を見てごらん。きっと誰もが君を見ている筈だ」
言われた通り視線を動かすと七、八割埋まった席で昼食を摂っている看護師さんや病院スタッフの皆さんの視線がほとんど僕たちのテーブルに向けられている。特に若い人ほど僕を凝視、まさにガン見していた。
僕はすぐに視線を浦安さんに移した。
「は、はい。み、皆さんこちらを見ています」
「君はこれならこういった視線を受けながら生きていく。女性たちからすればさぞや愛おしくまぶしい存在か…。それが憧れや恋心、愛情であればこんなに素晴らしい事はないね」
憧れや恋心、愛情…。確かに、もし自分が好きになった女の子がそんな気持ちでいてくれたらどんなに嬉しいだろうか。
「だが…」
浦安さんが声を低めた。
「それが欲望や悪意に満ちたものになる事もある」
「えっ?」
「そして被害者が君になる場合もね」
眼光鋭く浦安さんが呟いた。
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