#3 ラッキースケベを撒き散らす


 コンコンコン。


 ドアをノックする音。


「あっ、はーい」


 僕は慌てて返事をした。スライドドアが開く。


「佐久間さん、おはようございま…」


 警護についてくれている二人の女性刑事さん、瀧本さんと武田さんが病室に入って来たのだが、僕を見るなり硬直フリーズした。凝視、そんな言葉があてはまるようなガン見。


「あっ!!ゴ、ゴメンなさいっ!」


 僕は丁度シャワー室から出てきたところだった。下こそハーフパンツを履いているが、上は首からバスタオルをかけているだけ。


「すいません、丁度お風呂上りで…。す、すぐにシャツ着ますんで」


 僕の言葉で二人の硬直が解けたみたい。


「い、いえ!お風呂上がりでまだ暑いでしょう?ら、楽になさってくださいッ!」

「そ、そうだよ!オレ達の事なんて気にしねーでさ、そのままでッ!」


 二人はそう言ってくれたが、プールや海でもないのに流石に女性の前で上半身だけとは言え裸でいる訳にはいかない。背中を向けて手に持っていたシャツを着る。


「ああ…」

「くっ、タオルの隙間からチラチラする天然の男のチク…」


 なんか二人から血の涙を流してそうな声がするが、僕はいそいそとTシャツを着て二人を出迎える。なんとなく不穏な発言があった気もするが気にしない事にする。


「すいません、お待たせしました。バスタブに長いこと浸かってしまったんで…。やっぱり、体が熱くて…」


「そっかあ、オレ…。いや、私も風呂に浸かりたい派なんだけど待機宿舎…、まあ警察官が借りられる部屋の風呂に追い焚き機能が付いてなくてさ。だからシャワーばっかりでさ」


 短髪ベリーショートの女性刑事、瀧本さんがそんな風に言う。そう言えばこの医療施設に向かう直前の警察署で他の女性署員の人にジャンケンで勝っていたのはこの人だったっけ。


「そうだったんですね。あっ!」


「どうしたんですの?」


 もう一人の女性刑事、武田さんが声をかけてくる。


「追い焚き機能で思い出しました。この部屋のお風呂にも追い焚き機能が無かったですね。お湯を抜いておかないと…」


 そう言って僕はバスルームに戻り、バスタブの栓を抜いた。たちまち排水口からお湯が排出されていく。


「あ、あなた!余計な事を!」

「し、しまった!て、『天然』の男の使用済み…貴重な残り湯が…」

「後でゆっくり楽しめたかも知れませんのに!」


 何やら気のせいじゃない不安を感じるやりとりが聞こえる。この世界、何かがおかしいんじゃないか…。そんな事を思うようになった。



 午前10時を過ぎた頃、警察署の妙に迫力がある女性署長さんがやってきた。もう一人、五十歳過ぎくらいだろうか…女性を伴っている。


 ちなみに署長さんは確か龍崎寅代りゅうざきとらよさん。うーん、龍と虎を合わせ持つ名前ってなかなかないよなあ。それだけで迫力がある。


 もう一人の方は署長さんが到着する前まで署員を代表するような感じで僕を迎えてくれた人だった。署長さんより少し歳上か…、もしかすると副署長さんとか署長さんよりわずかに階級が下がるだけでかなりエライ人なのかも知れない。


「おはようございます。一山露子いちやまつゆこと申します」


「おはようござぃます。佐久間修です。よろしくお願いします」


 うーん。なんだろう。初めてかも知れない、警察署の中の人で安心感がある人は。


「どうだい、一山ヤマさんは?騒がしい奴らばっかりのウチの署の中で一番の切れ者だ!ハッキリ言ってヤマさんがいるから難しい事とか考えずに仕事出来るんだ」


「いや、そこを本来考えなきゃいけないのは署長ボスですからね…」


  はあ…と小さなため息をきながら一山さんが応じている、若造の僕が言うのもなんだが苦労人なのかも知れない。


 そんな事を考えていると一山さんが声をかけてくる。


「佐久間君…、で良いかな?」


「あ、はい」


「ドクターに軽く聞いた感じだと問題も無いようだし、あと一日か二日で退院出来るそうだよ」


 健康に問題が無さそうと聞いて僕は一安心する。


「…うん。それと…ご家族と連絡がついてね…」


 僕をまっすぐに見つめながら一山さんが話し始めた。





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