第3話


 サンディは、とてもとても迷っていました。


 施設にいるのは、捨てられた子達。誰も迎えに来ない。親が迎えに来たことなんてない――――そんなことを言われても、今までのサンディは、ずっとずっとママのことを信じていました。


 サンディのママだけは違う。病気が治ったら、絶対に迎えに来てくれるの! だから、サンディは他の家の養子になんかならない! サンディはママを待っているんだから! と。


 けれど……年上のあの子に言われた言葉がサンディの胸を、ママを信じていた心を、ずたずたに傷付けたのです。


 サンディのママは病気。


 それも、薬物中毒という最低な病気。


 入院したのは更生施設。そうじゃなければ、サンディを虐待した罪で逮捕されていて、刑務所の中にいる――――


 サンディは、ママに虐待されていた――――


 その言葉が、ずっと頭から離れません。


 ママはサンディを愛していなかったの?


 サンディは、ママを愛していたのに。愛していたから、どんなにつらくても我慢していたのに――――


 サンディが迷っている間、お金持ちの一家はサンディを急かすことはありませんでした。「ゆっくり考えて、いい返事を聞かせてほしいからね」とのこと。


 けれど、サンディがどうしようかと迷っているうちに施設の他の子供達が、


「お金持ちが引き取ると言っているのにそれを断って施設に居座るつもりだ」

「なんて嫌な奴」

「あんなバカなガキなんかより、自分が金持ちに引き取られたい」

「なんの価値も無いクセに」

「ヤク中のガキが、なにを勘違いしてんだか」


 と、サンディを目の敵にして嫌がらせをするようになりました。


 サンディのごはんが取られたり、わざと溢されたり、駄目にされたりしました。

 わざとぶつかられて、何度も転ばされました。

 身体のあちこちに痣ができました。

 わざと洋服を汚されました。

 一人だけ仲間外れにされました。

 みんなに無視されました。

 みんなに笑われました。

 毎日、小さな傷が絶えませんでした。


 判り易く虐めたり、大きな怪我をさせられることはありません。問題児だと見做みなされると、養子にしてもらえなくなるかもしれないからです。


 大人達には判らないよう、陰湿にサンディへの嫌がらせは続きました。


 もっとしっかりしなさいと職員達に叱られました。

 サンディに問題があるのだと言われました。

 みんなと仲良くしなさいと言われました。

 話を聞いてもらえませんでした。

 職員達はサンディを助けてくれませんでした。


 施設の中にはサンディの味方をしてくれる人は、誰もいませんでした。


 サンディは、ママを待つことに迷いを生じていました。そしてとうとう、施設にいる他の子供達に陰湿な嫌がらせを受けることに疲れてしまいました。


 自分にはなんの価値も無い、と。


 その結果、サンディは――――

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