第4話 愛雲日陽(あくもひよう)の場合

 職員室で鍵を借りて部室に向かうと、その途中で愛雲日陽に会った。


 愛雲を一言で表現すると、今時の高校生だ。

 綺麗に染められた金髪、現実で見ると無防備極まりなく思える短いスカート、元の顔のパーツがいいから控えめな化粧でも十分に可愛らしく、普通にスタイルもいい。シャツの上からでも大きく見える胸ってすごいのな。


 陽キャの最前線を行くような愛雲がなぜアニメ同好会にいるのかは、詳しいところは俺も知らない。


「よう」


「ちっ」


 ご大層な挨拶だ、まったく。


 部室を開けるや否や、さっさと奥の席を陣取ってはスマホをいじり始める。

 これが愛雲の平常運転である。


「他のは?」


「土花はパソコン持ち込みがバレて職員室。先輩は演劇部」


「そ」


「二人っきりだな」


「うわくっさ、青臭い、ていうか生臭い。オタクでも腐ってんじゃないのこの部屋」


「おま、年頃の高校生に臭いは禁句だろ。お前だって言われたら傷つくだろ」


「あたしはちゃんと気使ってるから。朝はシャワー浴びてるし、体育の後は制汗シート使って香水もつけてるし。あんたとは違って」


 一言余計だ。


 でもたしかに、柑橘系のいい匂いがしなくもないような。


「フガフガ鼻を鳴らすな、エロブタ」


「ブタって犬並みに嗅覚がいいって話だよな。つまりブタは犬だ。そう考えると俺も愛らしく見えてくるだろ」


「眼科行ってきたら? いや、精神科のほうか」


「冗談って知ってるか?」


 教室じゃ陽キャしてるくせに、俺にだけは何を言っても毒しか吐かない。

 毒袋でも持ってるのか? 俺にだけ反応するってどんなだよ。


「今日はお友達とお出かけしなくていいのか?」


「言い方ウザい。あたしにだって一人で好きにやりたいときもあんのよ。ああ、いつも一人だからわかんないか。オタクだもんね」


 こいつ……と言いたいところだが、その煽りを真に受ける俺じゃない。


「ありがたいことに、土花と先輩には仲良くしてもらってる。新しく入ってきた後輩にもそこそこなつかれてるしな」


「……あっそ」


 思い通りにいかなくて不貞腐れた。小娘よ、甘かったな。


「そのルックスがあってよかったわね。どれだけキモくてクサいオタクでも女が寄ってくるんだから」


「言葉悪いし反論したい部分もあるが、褒め言葉はありがたくいただこう」


「色が白いは七難隠すっていうものね」


「どういう意味だ?」


「さあ」


 初めて聞く言葉だが、こいつのことだ、悪口なのはわかった。




 これが愛雲日陽という女である。

 オタクを……というか俺を毛嫌いし、一度会えば十は罵ってくるのだった。

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