詐欺師の眼鏡

「まず相手を見極めることだ」

「相手、ですか」


「詐欺師の器量は上手く乗せる口と、よく回る頭、それから相手を見極める目、これに尽きる」

「ははあ」


「口と頭は素質だが、目に関しては良いものがある」

「良いもの?」


「この眼鏡をかけてみろ」

「……なにも見えません」


「それはお前が半人前だからだ」

「いったいこれはなんなんです?」


「これはなあ、菜食主義者ヴィーガンが命の尊さを説くために作った特別な眼鏡だ。鳥を見れば鶏肉に見え、豚を見れば豚肉に、加工済しんだあとの姿が映る」

「ああ、一時期話題になりましたね。すぐ回収騒ぎが起きましたが」


「これはそのとき回収を免れた眼鏡だ」

「へえ」


「詐欺師がかけると、ひっかかりそうなやつは鴨に見える」

「えっ」


「俺がかけると、そこら中葱を背負った鴨ばっかりに映る」

「ほ、本当ですか?」


「だから俺は今まで仕事をしくじったことがない」

「そんな秘密が……」


「詐欺師にとって被害者カモは食い物だからな」

「なるほど」


「お前も早く、この眼鏡をつかいこなせるようになれよ」

「はいっ! 一日も早く捕食者いちにんまえのさぎしになれるように頑張ります!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る