悲しい結末

 最近SNSで密かに流行っている、浮気を確かめる方法、というものを試してみることにした。


 意味ありげに静かに微笑みながら、夫の前に水の入ったコップを差し出す。


「このコップに、毒薬を入れました」


 心当たりがなければ「そんな馬鹿な」と笑い飛ばすし、なにかやましいことがあれば「まさかあれがバレたのか」と動揺する。

 妻の殺意、というものを向けられた夫の反応を見るのが目的であるそうだ。 


 ほんの悪戯心だった。まさかうちの夫に限って、という信頼もあった。

 けれど夫は今、私の前で透明なコップをじっと見つめたまま、動かない。


 だらだらと流れる汗。きっと夫は黒だ。誰がどう見ても、やましいことがあるに違いない。


「すまない」


 夫は深く頭を下げた。それから、目の前のコップを手に取り、その水を私に飲ませた。 

 

 夫は怖い顔をしていた。その顔が、ぐにゃり、と歪む。


「どうしてバレたんだろう」


 私が気を失う前、夫はそう言った。

 私はそれから、目を覚ますことはなかった。

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