社会人

 新卒に向けた会社のPR動画を撮りたいという事で、カメラがやってきた。


 私には新卒で入った先輩として、わが社を志望する新卒にメッセージを送って欲しいというが来た。

 メッセージもへったくれもあるかよ、と思いながらも「わかりました」と仕事を受けた。社会人も三年やると、無駄に反抗する体力も気力も失う。


「そうですねー。やりがいがありますね。やはり、数字を追いかけるのは楽しいです」

 上手くいってるときはそりゃあ楽しいですよ。上手くいかないときの方が多いんですけどね。


「我が社の魅力は経営陣が若いことですかね」

 頭が柔らかいのが自慢ですから、方針がいつもころころ変わるんです。


「相談しやすい上司もたくさんいます」

 相談したからといって解決してもらえるとは限らないですけど。


「優しく相談に乗ってくれますよ」

 ついでにセクハラもしてくれますよ。


「残業はほぼないです」

 タイムカード上は。


「だからプライベートな時間も確保出来ますよ」

 仕事が終わった後、遊ぶ体力と気力は残ってないんですけどね。


「ぜひ、一緒に働きましょう!」

 そして一緒に苦しみましょう!


 私は本音を厳重に包み隠し、笑顔で嘘八百を並べ立てた。

 だって仕方がない。

 私が新卒の時も同じような映像を見て、この会社を選んだのだ。

 そうやって犠牲者のバトンは渡っていく。


 社会人になるとは、平気で嘘がつけるようになることだ。

 私も立派な社会人になったものだ。

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