十年後の自分
十年後の自分に会える鏡というものを、とある通販サイトで見付けた。
十五歳の私にとっては十年後は気が遠くなるほど遠くて、想像もつかない。
ものは試しに、と買ってみることにした。勿論親には内緒だ。貯めておいたお年玉を支払いにあて、商品が届く日をどきどきしながら待った。
商品は三日後に届いた。簡素な茶色い小箱に入っていた鏡は、質素なただの鏡で、枠も白いプラスチックのごくごく普通のものだった。
もしかして騙されたのではないかと思ったが、鏡の箱に一緒に入っていた説明書には、夜中の二時に特殊な記号を鏡に描くことで十年後の自分と対面出来ると書いてあった。
よしよし、と期待に胸を膨らませ、その
夜中の二時に震える指先で説明書通りの記号を鏡に描いていく。
最後の記号を描き終え、手を放すと、鏡面が白く光った。
おお。とうとう十年後の自分に会える。私のときめきは、最高潮に高まる。
光が収まった鏡には、確かに今の私ではない私が映っていた。
小太りの、髪の毛はばさばさの、ファンデーションで隠し切れないほど肌の荒れた冴えない女だった。その女が意地悪そうな笑みを浮かべて、「これが十年後のあなた。何か聞きたいことはある?」と尋ねた。
私はじっくりと自称十年後の私を見た。確かに顔は似ている。だけど。
私は鏡を、入っていた小箱にしまった。箱の上からガムテープでぐるぐる巻きにした。
それから、化粧水をつけてベッドに入った。
あんなの、私じゃない。信じられない。きっといんちきだったのだ。
翌日から私は夜更かしをやめ、毎日きっちりお肌と髪のケアをし、体重計とにらめっこをし、日焼け止めを忘れない美容にうるさい女になった。
来年あたり、またあの鏡を覗いてみようと思う。
いや、信じてないけど。信じてないけどね。
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