チート屋

 真っ暗だった。右も左も、上も下も暗闇で、地面もなく、けれど特に不快感はない。一体俺はどうしてしまったのだ。焦りはすぐに体中に伝播し、股間がきゅっと縮み上がる。

 そのとき、目の前が急にぱっと明るくなった。と、同時に場違いなほど明るい声が俺の耳に飛び込んできた。


「毎度ありがとうございます! チート屋です!」


 そこに姿を現した浮かれた女は、そこまで露出度の高い服ならいっそ脱いでしまえ、と突っ込みたくなるような軽装で、にこにこと笑みを浮かべていた。


「いやーお客さん、運が良いですね。で、どれになさいます? 各種取り揃えておりますよ」


 兎の耳を模した飾りのついたリュックをごそごそと漁る女。俺は眩暈がしそうなほど混乱していた。


「いや、何が? ていうかお前は誰だ」


 女はきょとんと俺を見る。


「あら、ご存知ないですか? 私はチート屋。転生後の能力をお売りしています。結構皆さま利用されてますのでね、もうすっかり有名人のつもりでおりました。失礼ですが、流行には疎いのでらっしゃいますね。まあでもそういう方がね、転生後むこうでは結構大成なさるようですから、まあ、まあ、まあ」

「転生!?」


 そうか。俺は死んだのか。文字数の関係で深く詮索はしないでおいてやる。


「で、どれになさいます? やはり戦闘系のお力ですか? それとも何かの専門知識にします? あとはまあ、恋愛系のお力が人気ありますかねえ」


 俺は悩む。せっかくだからもてたいし、無双したいし成りあがりたい。今世では成し得ないであろう輝かしい日々を過ごしたい。考えた末に、口を開いた。


「俺は──」


 こうして俺は天才的な戦闘能力を兼ね備えたに生まれ変わった。そういえば、あの女は転生後の種族などには全く触れていなかった。

 俺は今日も最強の嘴を武器に、効率的に餌を収集し、雌の雀は選びたい放題。

 まあ、こんな転生後も、悪くないかな。と、自分に言い聞かせている。

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