パパの芽は出るのか否か

 最近三歳の息子の中で、花壇に水やりをするのが流行っている。


 毎日幼稚園から帰宅するやいなやぞうさんのじょうろを手にし、話しかけながら花壇に水をかけていく。

 そんな姿を、私は微笑ましく見守っていた。


 今日も息子はいつも通り、ぞうさんのじょうろで花壇に水をやった。

 空になったぞうさんのじょうろを回収しようとしたところ、「もう一回水入れて!」とせがまれた。私は言われた通りにした。

 すると息子は、家の中に入り、階段を駆け上がった。

「どうしたの?」と私は急いで付いて行く。


 二階の夫の作業部屋の扉が開いていた。

 息子が椅子の上に立ち、原稿を書きかけている夫の頭に、じょうろで水をかけていた。夫は呆然としている。


「なにしてるの!」

 悲鳴に近い私の叫びに、息子は笑顔で返事をする。

「パパの芽が出るように、水をあげてるの!」


 漫画家の卵である夫は、口を開け、目を丸くして息子を見た。

 息子は嬉しそうに続ける。


「種があれば、芽が出るんだよ。パパにも、種、埋まってるんだよね?」


 夫が私を見た。私は咄嗟に返事が出来なかった。

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