第17話 「嬉しいお誘いですが遠慮させて頂きます」



 ファック。

 冒険者ギルド南千住No.1受付嬢、いやおそらく世界でも比類なき可憐さを誇る私ことユウキ・サクラの清純なる心が今ある一人の醜男によってかき乱されている。


「やあ、また会ったね。ユウキさん」

「ギルドカードをお見せください」


 だから何がまた会ったねなんだよてめぇからノコノコとその間抜け面を晒しに来てんだろうがキンタマもぎるぞああん!?

 おっといけないいけない。

 イライラのし過ぎは美容に悪い。

 落ち着かないと。


「いやー、さっき君のいうダンジョン? とかいうところに行ってきたんだけどさ、あれは酷い場所だったね。通路の電球が切れてて全然前が見えなかったよ。ま、俺の輝きでなんとか事なきを得たけどね。なんちゃって!」

「……すみませんが、まずはギルドカードのご提示をよろしいでしょうか」


 そう。

 私のこのストレスの全ての原因はご覧の通り、目の前にいる規格外の勘違い男、アディオス藤木にある。

 頭の中は空っぽのくせに、今日もこいつの耳の穴はくっせぇくっせぇ耳クソでいっぱいになっているらしい。

 というか何でコイツまだ生きてんの?

 何がダンジョンに行ってきただよ。

 本当は途中でビビり抜かして尻尾撒いて帰ってきたんだろ?

 クソダサ男だ。

 早くダンジョン逝ってこいよ。


「それにしても君はいつ見ても綺麗だね。まるで宝石みたいだよ。なんちゃって!」

「……あはは、ありがとうございます。お世辞がお上手ですね。それで、ギルドカードはお持ちでしょうか?」


 ふざけんな私の美しさをちょっとばかし透度の高い石ころと同じにしてんじゃねぇぶちころがすぞ。

 なんカラットの宝石だって私の価値の足下にも及ばないっつーの。


「さて、そんでもって宝石といえば、実はこんなものを拾ったんだよね」

「……え?」


 しかし、その時この租チン野郎はポケットの中からこいつ程度のゴミが持っていいはずのないものを取り出してくる。

 心底腹の立つドヤ顔を浮かべながら、受付のカウンターに置いたのは、“C級コアクリスタル”で間違いない。

 それはCランクダンジョンのダンジョンマスターを倒さないと手に入れられない代物だった。


「あ、あの、これは? 貴仁様が手に入れられたのですか?」

「え? 今、俺のこと貴仁って呼んだ? ちょっと待って。もしかしてユウキさんって俺に気がある?」

「まさか。ご冗談を。さすがの私も(殺す)気はないですよ。それよりもこのクリスタルは?」


 アリエンアリエンアリエンェェェンンンッッッ!!!!!

 こんなウスノロチンカスモドキがCランクダンジョンを攻略しただと!? 

 いやいや冗談キツイって。

 おいこらアディオス藤木?

 てめぇどんな薄汚い手使ったんだ?

 正直に白状しろよゴラァ!?


「だから拾ったんだよ。そんでどうよ? これを俺が売って金つくってくるからさ、今晩一緒にご飯でもどう?」

「いえそれは。(お前を法的に訴えるチャンスができて)嬉しいお誘いですが遠慮させて頂きます。仕事がありますので。そんなことよりも、本当にダンジョンに向かわれたのですか? あの虚骸竜スケルトンドラゴンは?」

「ドラゴン? ……あ、ああ、えーと、それを壊したのは俺じゃないから安心して。実は連れがもう一人いて、そいつが全部やった。俺は何にもしてない。これはマジ。ガチだから」


 ほぉれ見ろぉっ!

 ひゃっほおい!

 やっぱりこのクソザコナメクジがダンジョンマスターを倒したわけじゃなかった!

 そりゃそうよ。

 こんな社会の最底辺がCランクダンジョンを突破できるわけないじゃない。


「そうだったのですか。ではそのお連れの方は今どこに?」

「え? あ、ああ、色々な事情があって凄い遠回りをしてこっちに向かってるところ。ちょっと人目にかかるとまずい格好になっちゃってるから。で、俺はあいつを待ってやる義理もないし、先にこっち来たってわけ。まあ、君に早く会いたかったってのもあるんだけどね。なんちゃって!」


 というかさっきからずっとやってるそのなんちゃってポーズやめない?

 指を額に当ててから私の方にビュッってやるのやめてくれない?

 私の吐瀉物がヴォエッてなりそうになるからやめよっか?


「あ、そうだ。忘れてた。元々はこれを返しに来たんだった。はい地図。凄く役立ったよ」


 アディオス藤木はなぜか指二本だけで地図を摘みながら私に返却する。

 たまたま強い同業者を見つけただけで調子乗りやがって。

 生意気なアディオスめ。


「すいません! タカヒトサマさん! 遅れました!」

「お、やっと来たか」


 するとその時、冒険者ギルド南千住に新たな冒険者がやってきた。

 私は反射的にいつもの男なら一目惚れ間違いなし女なら嫉妬率百パーセントの完璧な笑顔を振り向ける。

 


「いらっしゃいま……え?」



 こちらへ満面の笑みで駆け寄ってくるのは一人の少年だ。

 しかし背中にはハルバードを背負っているが、無垢な身体はほとんど丸出し。

 かろうじて隠れているのは股間部分のみだが、そこも布きれを薄く巻きつけただけというやけに挑戦的なファッションをしていた。


「あれが俺のさっき言ってた連れ。全ての責任はあいつにあるんで、よろしく。……おい、マドカ! あとは任せたぞ! ちゃんと全部正直に話せよ!」

「はい! もちろんです!」

「じゃあ、ユウキさん、俺はこれで。またね、アディオス!」


 アディオス藤木は普段通りでアホ面を残して去って行く。

 代わりに私の下へやってきたのは、限りなくHENTAIに近いナニカ。

 というかあんまり関わりたくないタイプの人間だった。


「ど、どうもよろしくお願いします。あ、これ、僕のギルドカードです」

「ご提示ありがとうございます」


 でもこの子はちゃんとギルドカードを私に見せてくれるようだ。

 いいじゃない。

 わかってる。

 どう見てもHENTAIだけど、そこは好感度加点1にしておいてあげる。

 ってあれ?

 ギルドカードをきちんと私に提示するってごくごく普通のことじゃない?

 こんな当たり前のことで好感度アップって私としたことがチョロ過ぎない!?


「あ、あの、僕のギルドカード折れ曲がりそうなんですけど……ご、ごめんなさい。僕なにかしましたか? え、えーと、サクラさん? 聞こえてます?」


 ついに明確に私に悪影響が出ていることが判明した。

 超絶可憐パーフェクト美少女である私に悪影響を及ぼすなんてアディオス藤木許すまじ。


 この私を敵に回したこと、必ず後悔させてやるんだから。




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