第14話 「お前ならいつかやると思ってたよ」


 恐竜なんてザコだ。

 俺には到底かなわない。

 そんなことは地球上の歴史をちーとばかしお勉強した奴なら当然理解できる。

 まず現時点で恐竜はすでに絶滅していて、この世界にはもう生き残っていない。

 このことから恐竜が俺以下の下等生物であることがわかる。

 

 しかも。

 しかもだ。


 博識な俺は知っている。

 どうも恐竜は鳥、つまりあのコケコッコーだのカーカーだのツクツクボウシだの頭の悪そうな鳴き声を出す不細工な生物の祖先らしい。

 恐竜の進化形こそが鳥。

 そしてその鳥を串にして焼き、甘辛のタレをつけて食べる俺が最強。

 食物連鎖の頂点というわけだ。

 

「ヴオオオッッッ!!!!!」

「タカヒトサマぁっ!? ま、まずいですっ! ブレスが来ますよぉっ!?」

「ったくほんとにお前はうるせぇな。餓鬼じゃあるめぇし、恐竜の骨格標本くらいで興奮してんじゃねぇよ。むしろ俺という存在に感銘を受けろ」


 それにしてもここはいったいどこなんだ?

 出口を探して歩いていたはずなのに、なんで恐竜博物館じみた場所に辿り着かなきゃならんのだ。

 てかこんなだだっ広い空間に骨格標本一つだけとか寂しくね?

 通路も真っ暗だったしマジ金ねぇんだなこの施設。

 受付のオッサンも見るからに浮浪者臭かったし、まあそれも当然か。


「タカヒトサマさん危ない!」

「あん?」


 すると突然、目の前が真っ青になって視界が奪われた。

 おいおいなんだこりゃ。

 ふざけんなよマジで。

 センス溢れるパフォーマンスのつもりかよ。

 ゴミつまんねぇから止めろ。


「んだこのクソ恐竜。どうでもいいところに金使いやがって」


 どうやらそこの恐竜の骨格標本に何かしらがしこまれていて、そこから青い光が飛び出してきたようだ。

 実害こそないが、むちゃくちゃ腹の立った俺は、軽く恐竜の骨格標本を小突いてやることにする。

 本当は派手にぶん殴ってやりてぇところだが、俺は紳士だからな。

 ちょっとした目つぶしで勘弁しておいてやろう。

 べつにもし壊れて弁償代金を要求されることにビビったとかじゃねぇぞ。


「おしおきだ」

「えぇ!? うそっ!? なんでタカヒトサマさん無事なんですか? ……はっ! まさか! 今のは虚骸竜スケルトンドラゴンの幻影火焔ミラージュブレス!? す、凄い! たった一瞬で幻覚を見破るなんて!」


 後方でまた電波くせぇ意味不明な発言を無視して、俺は生意気な絶滅生物の目を指で突く。


 ――グチョリ、するとそんな音がして指に粘着質な感触がした。


 は?

 え?

 ちょっと待って?

 なにこれ?

 なんか指についてるんですけど?


「……き、き、キモイキモイキモイイイイっっっ!!!!??? おいマドカ早くこっち来てコレなんとかしろおおお!?!?」

「うへぇ!? ぼ、僕ですかぁっ!?」


 最悪だ。

 超キモイなんだこれ。

 指にくっせぇヌチョヌチョしたよくわかんねぇけどとにかくキモイのついた。

 誰だよ骨格標本の目ん玉なかに腐った卵白みたいなの突っ込んだ奴は。

 マジでふざけんな。

 ゴリクソ不愉快なんですけど。

 ガチでイラついてきた。

 帰りてぇ。

 超帰りてぇ。


「ヴオオオッッッ!!!」

「ち、近づけませんよタカヒトサマぁ!?」

「うるせぇ早く来いってんだよ!」


 俺はしゃがみ込んで床になんかキモイのついた指を擦りつける。

 すげぇテンサゲだわ。

 てか臭すぎんだろ。

 この臭いどうやったらとれんだ。

 しかも全然指から離れねぇぞこのひたすらキモくてヌチョヌチョした奴。

 早くマドカの野郎ハンカチかティッシュでもなんでもいいから渡せっつんだよ。

 俺は周囲の状態を全く気にせず、とにかく俺の不快指数をマックスにする粘着質な液体を完全に消そうと全神経を注いでいた。


「ヴオオオ!」

「うわぁ!? またブレスですよタカヒトサマさん!」

「だからごちゃごちゃ言ってねぇで早く来いってんだよ。クソ恐竜の骨にビビってんじゃねぇ! 全部ただの映像だっつんだよ!」


 何をチンタラしてるのかと思えば、マドカはどうもこのゴミ恐竜の骨イリュージョン(笑)におもっくそビビってるらしい。

 ただの演出に怯えるとはマジで使えない。

 俺並みのゴッドメンタルとは言わないが、チンカス一般男性レベルくらいの精神力は持っていてほしいものだ。

  

「本当ですか!? 信じますよ! ……って熱いぃぃっっっ!?!?!?」

「あ」


 するとついにこの精神破綻者は決定的な問題を起こしてしまった。

 しゃがみ込んでいた俺の頭を通り過ぎていく、ザコ恐竜の骨の口から放出される炎を模した映像。

 あれほど言ったのに、愚かなマドカはそれに腰を抜かし、あの馬鹿でかいハルバードを思い切り放り投げてしまった。

 尋常ではない速度と勢いを持って、一直線に空中を貫いていくハルバード。

 進行方向の先にあったのは、当然この広間に飾られていた恐竜の骨格標本。


「ヴオオ――」


 ――凄まじい衝突音に遮られ、白亜紀だか白痴紀だか忘れたが、だいたいそこら辺に生きていた生物の標本の再現ボイスは不自然に途切れた。


「はぁ……ついにやりやがったか。お前ならいつかやると思ってたよ」


 俺は嫌な予感と共に立ち上がり、背後を見渡す。

 そこにあったのは木端微塵にされた恐竜の骨格標本。

 もう動かないし喋らないし光らない。


 どうやらマドカとかいうイカレチンポコが施設の展示物をぶっ壊したようだ。

 

 もちろん俺はこの件に関して知らないし無関係だし責任はない。

  



 

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